レビュー

Her knuckle | 2021.04.15

葉菜子(ex.BiS / ムロパナコ)と後藤友輔(To Be Continued)が率いる音楽プロジェクトが「Her knuckle」。昨年11月にリリースされた1stフルアルバム『変わり者がなんだ』は、解き放たれた者のロック、といった感のある作品だ。収録された9曲中、2曲のインストゥルメンタル以外はすべて葉菜子の作詞である。

リードナンバーの「変わり者がなんだ」で葉菜子は、変わり者で生きにくそうだと第三者から言われる自身を歌う。9月にリリースされたデジタル・アルバム『現実から醒めた夢』と比べて、サウンドは大きくロックに傾斜している。

コロナ後の世界というのは、葉菜子と同じ世代には非常に生きづらいものだろう。戦後民主主義教育で至上のものとされてきた「自分らしく生きる」ことや「夢を追いかける」ことが難しくなるほど日本経済は衰退していたのに、さらに追い打ちをかけられてしまった。自意識では飯は食えない。「変わり者がなんだ」というタイトルだけ見れば、自意識が強い人間だと思われそうだが、もはやこういうことすら言えない状況の若者もいるだろう。「変わり者がなんだ」での葉菜子の疾走感には希望がある。



「ここは何処だー!あたしは誰だー!」になると、もはや身も蓋もない。自分が誰なのか、どこに行けばいいのかを、タイトルどおりに歌っているのだ。あまりにもストレートで、打算が入る隙すらない。音楽的にも「○○っぽい」という要素もない。直球過ぎるがゆえに、好感を抱いてしまう



「TSUYOKU-IKITE」は、意図的ではないかもしれないが、ギターのリフが歌謡ロックっぽいのが良い。「GET READY」で歌われる<あの日最後の舞台>とは何かは、聴き手の想像に任されている。



ロックを基調にしているアルバムだが、「かわいいラブソングが歌いたい」はテクノで、これはデビュー・シングル「レモン畑の恐竜」の路線だとも言える。こうしたポップさも重要な側面であり、巻き舌を利かせたボーカルも甘く響く。

ミディアム・ナンバーの「にじゅう六日」も新鮮だが、「ノンフィクション」にも驚いた。プログラミングをベースにして、R&B寄りですらある。<"才能があるのに勿体ない"/簡単に他人の人生に/指示をしたがって群がる>という歌詞に「ノンフィクション」というタイトルが冠されているのだ。

葉菜子は<あの子にはあの子の/地獄がある>と歌う。詳細は省くが、個人的にはBiS時代の彼女の姿には胸打たれることもあった。だからこそ、『変わり者がなんだ』を聴いて、叫ぶことを止めるな、と胸の内でつぶやいた。地獄の中を生きる同世代の憧憬と共感の対象に葉菜子はなっているはずなのだから。

【文:宗像明将】

リリース情報

雨が咲く

雨が咲く

発売日: 2021年03月17日

価格: ¥ 232(本体)+税

レーベル: Avalon Works

収録曲

01.雨が咲く

リリース情報

変わり者がなんだ

変わり者がなんだ

発売日: 2020年11月24日

価格: ¥ 2,727(本体)+税

レーベル: Avalon Works

収録曲

01.-Her birth-
02.TSUYOKU-IKITE
03.ここは何処だー!あたしは誰だー!
04.かわいいラブソングが歌いたい
05.ノンフィクション
06.-Her brain-
07.にじゅう六日
08.変わり者がなんだ
09.GET READY

【初回限定盤DVD収録内容】
01.レモン畑の恐竜
02.メウリー
03.TSUYOKU-IKITE
04.ここは何処だー!あたしは誰だー!
05.変わり者がなんだ
06.Disleep

お知らせ

■配信リンク

「雨が咲く」
https://linkco.re/zSN9A04h

『変わり者がなんだ』
https://linkco.re/VN6XYmur?lang=ja

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