レビュー
NORTH | 2021.04.16
ひとりの人間の内面には、どれだけ豊かな感情の色彩が満ち、どれだけ多様な音の波形が漂っているのだろうか。広島県出身のシンガーソングライター/トラックメイカーであるNORTHの、2作目のアルバムにして初のCD作品となる『ANDRWTR』。エレクトロニックなトラックと生演奏を自由自在に折衷させながら、それぞれに強いエモーションを迸らせる全9曲が収録されている。
高校時代まではラウドロックに傾倒しバンド活動に勤しんでいたそうだが、音楽専門学校に通い出すとDTMの技法を学び、EDMやエレクトロポップにも親しむようになったという現在22歳のNORTH。エレクトロニックなダンスミュージックを広く見渡しながら、決して特定のスタイルに固執することなく、感情の蠢きだけをひしひしと明瞭に伝える歌心は、彼の音楽遍歴に依るところも大きいだろう。
昨年7月に届けられたデジタルシングル「EYES ON ME」では、刻一刻と変化する精美なブレイクビーツと憂いを帯びたサウンドを背景に、離れた<君>へと寄せる思いをつぶさに描き、歌っている。続いて9月に届けられた「感覚的ベッドルームレジスタンス」は、ダウナーで苛立ったフューチャーベース/トラップビートを用いながら、<何が違うとか正しいとか/そんな事どうでもいいからさ/とりあえず踏み出してやろうぜ/創造的な反撃>といったふうに、孤独なベッドルームから反骨の炎を燃え上がらせているのだ。
また、アルバム『ANDRWTR』リリースを目前にミュージックビデオが公開された先行曲「VIOLET」は、J-WAVEが厳選する「いま聴くべき」曲を選出するSONAR TRAXやFM802『THE NAKAJIMA HIROTO SHOW 802 RADIO MASTERS』でのWEEKLY PUSHに選出された。情熱的なガラージュサウンドに乗せて、手の届かない<君>に心を掻き乱され激しく思い焦がれるナンバーであり、Tama Tsuboi(SHAMANZ)によるフラメンコ風のガットギター演奏が楽曲の狂おしさを増幅させている。完全DIY体制で制作/デジタルリリースした前作アルバム『NCYL』のフェーズから一転、新作ではほかにも、アーティスト/音楽プロデューサーの白神真志朗や、元BBHFの佐孝仁司(Ba)、SANABAGUN.の大林亮三(Ba)らといった、各方面の実力派たちが参加しているのだ。
舞い上がるような高揚感をもって自身を鼓舞する「Hallelujah」や、繊細なマインドをソウルフルなポップチューンへと昇華させた「Strangers」といったアルバム曲も含めて、今まさに飛躍の時を迎えようとしているNORTHは、孤独な感情の中にこそキラリと煌めく価値を見つけ、触れる者の心に揺さぶりをかけてくる。「underwater=水面下」から広い世界を見つめる視線は、信頼すべき人々とともに音を鳴らし、そして今後も多くのリスナーとの出会いを果たしてゆくのだろう。
なお、年が明けて2月には、新進気鋭のクリエイター集団・CELSIOR COUPEによる「VIOLET」「EYES ON ME」のリミックス音源や、「VIOLET」「Hallelujah」のスタジオライブ音源を追加収録した『ANDRWTR[Deluxe Edition]』がリリース。こちらもあわせて、ぜひチェックしてほしい。
【文:小池宏和】
■配信リンク
NORTH
『ANDRWTR[Deluxe Edition]』
https://lnk.to/andrwtr_dx
「蜥蜴」
https://lnk.to/tokage
リリース情報
ANDRWTR[Deluxe Edition]
発売日: 2021年02月17日
価格: ¥ 2,500(本体)+税
レーベル: LASTRUM
収録曲
01.FRIENDS
02.VIOLET
03.Lost In Tokyo
04.感覚的ベッドルームレジスタンス
05.EYES ON ME
06.Hallelujah
07.I feel like a good
08.D.I.S.C.O
09.Strangers
10.VIOLET - Remix
11.EYES ON ME - Remix
12.VIOLET - Studio Live
13.Hallelujah - Studio Live
リリース情報
蜥蜴
発売日: 2021年02月24日
価格: ¥ 1(本体)+税
レーベル: LASTRUM
収録曲
01.蜥蜴