GRAPEVINE、移籍後初のアルバム『Burning tree』に散りばめられた“キーワード”

GRAPEVINE | 2015.01.28

 渋いアルバムだ。高い演奏能力と、一筋縄ではいかないソングライティングを誇るバンドだけあって、どの曲もひねりが効いている。たとえば1曲目の「Big tree song」は、「あれっ?」と思うほどシンプルに聴こえてくる。しかし、聴き進むうちに、何層にも仕掛けられた音の厚みが耳にジワジワと押し寄せる。最終的には、そっけなく聴こえてくる曲の奥に秘められた、みずみずしい情緒が心を満たす。そうした曲をアルバムのオープニングに持ってくるバンドの気合いには、常にリスナーに能動的に聴くことを要求するGRAPEVINEの“音楽観”が込められている。
 ボーカルをくっきり浮き彫りにする名手グレッグ・カルビのマスタリングなどについて、田中和将(vo&g)、西川弘剛(g)、亀井亨(dr)の3人に話を聞いた。

田中:一昨年、アルバム『愚かな者の語ること』のツアーが終わった後に曲作り期間に入って、11月くらいからプリプロを初めて5、6曲できたところで、前のレーベルとの契約が終了したんですよ。で、去年2014年の4月に ビクターへ移籍が決まって、5月から続きを始めたんです。
EMTG:制作途中で、移籍があったんだ! 精神的な苦労はなかったの?
西川:デビュー以来、初めてレーベルを移籍だったんですけど、音楽的に盛り下がることはなかったです(微笑)。
田中:まあ、初めての経験だったので、フレッシュな気持ちになったというか(笑)。
亀井:むしろ作ってる曲を眺め直す時間があって、よかったですよ。
EMTG:余裕だなあ(笑)。移籍をはさんだことで、アルバム作りに変化はあった?
西川:ビクターの大きいスタジオを自由に使わせてもらって、伸び伸びやれましたね。
EMTG:それはよかったね。あそこは日本でも有数の、大規模なスタジオだから。
西川:そうなんですよ。すごく贅沢なプリプロがやれた。僕らはセッションしながら曲を作っていくんですけど、きちんとしたレコーディングができるスタジオで曲を詰める時間があったのは、本当によ かったです。
田中:セッションした音を、いいモニターですぐに聴けて編集作業も手早くできたので、小さなリハーサル・スタジオでやるより、ずっとよかった。
西川:やっぱり、いいスタジオだと、自分たちのやりたい曲のイメージが早くキャッチできる。
亀井:まずシングル『Empty song』を出すことになっていたので、それを先に仕上げてからアルバムのプリプロを続けてやって。
田中:曲作りも並行してやって。
EMTG:『Burning tree』は全体に、すごくシンプルに聴こえるんだけど、じっくり聴くと中身がすごく詰まっていて充実しているね。たとえば1曲目の「Big tree song」は、その典型だ。
田中:あれは、割と早い時期にできた曲なんだけど、仕上げたのはずいぶん後半の方だった。
西川:最初に入れたパーカッションが、ちょっとインドっぽ過ぎて、それをどう変えようかに時間がかかった。DadaD(読み:だーだーだー)っていうバンドのShigeくんに頼んだら、ウォーター・ドラムとかを使って6種類の音色を作ってくれた。 結局、それを“曲の顔”にしようってなって、ループにしたり、いろいろやってみた。いろいろやるのが好きなんですよ。しかも、誰も止めてくれないし(笑)。
田中:どこで終わりにするかが、いちばん難しい。
EMTG:絵を描くのと同じだ。どこで絵の具を塗るのを止めるかが難しい。
田中:まったく(笑)。コード進行はシンプルな曲なんですけどね。
EMTG:でも、話を聞いてると、そういう試行錯誤が楽しそうな感じがする。
田中:はい、あれこれ試すのが好きですから(笑)。
EMTG:そして次の2曲目「KOL(キックアウト ラヴァ―)」 は、「Big tree song」とは対照的に、複雑なボーカル・メロディーを持っている。
田中:ビクターに移籍して、新たにA&Rになった人が、「熱いものを作りましょう」って言ってくれて、それに応えようと作った曲ですね。キングス・オブ・レオンとか、一緒にYouTubeをたくさん見て、「こんなイメージでジャムってみようか」ってやりました。情けないガレージ・サウンドを目指して(笑)。
EMTG:情けないガレージ・サウンドって(笑)。でも、そういうキーワードが面白いね。
西川:僕にとってこの曲のキーワードは、“欠落した破壊力”。しかも自己陶酔してるボーカルは、ザ・キュア―みたいで。
EMTG:アメリカのキングス・オブ・レオンと、イギリスのザ・キュア―が同居してる曲なんだ(笑)。
田中:僕の中ではザ・ストロークスのイメージだったりして。
EMTG:あはは。GRAPEVINEは、そうやってコミュニケーションを取るの?
西川:曲名ではなく、アーティスト名を出してイメージを伝え合うことが多いですね。
EMTG:新しいA&Rとも“会話のチューニング”を合わせなきゃいけないし。
田中:ですね。
西川:でも、ただ懐かしいだけで、いろんなバンドのYouTubeを、全員で1時間も見てたこともあった。
EMTG:せっかく立派なスタジオでやってるのに、YouTubeばっかり見てて、いいの?(笑)
田中:A&Rも一緒に盛り上がってくれたんですけど、今後はそうはいかないでしょうね(笑)。
EMTG:たぶん(笑)。でも、いい雰囲気のレコーディングだったことは確かだね。
田中:はい。
EMTG:僕がこのアルバムでいちばん好きなのは、「Weight」だな。
田中:これは、亀井が“亀井節”を持ってきた。
EMTG:あはは、亀井節っていうのがあるんだ。
田中:GRAPEVINEらしい曲。こういうのが出てくると、聴いてる方も安心してくれる。
西川:そういう曲だから、あまりごてごて考えずに、生演奏でシンプルに仕上げました。得意のパターンです。
EMTG:この曲のキーワードは何だったの?
田中:“アーバン”ですね。なんかニューヨークの雑踏の中にいるヨレヨレ男のイメージっていうか。だからみんなでビリー・ジョエルの「オネスティ―」のYouTubeを、改めて見ました。
EMTG:がははは。またYouTubeを見たんかい!
田中:いやいや、お陰で新たな発見がありましたよ。
EMTG:何を発見したの。
田中:最近のライブの映像だったんですが、オリジナルのキーよりかなり下げてるのに、それを感じさせないボーカリゼーションがすごかった。
EMTG:しょーもない発見だ(笑)。
田中:そんなことないですよ(笑)。
EMTG:そして、最後の仕上げは、ニューヨークのスターリング・サウンドのエンジニアのグレッグ・カルビがマスタリングした。
西川:新しいA&Rが、マスタリングは海外でやってみないかって提案してくれて。
田中:シングルは同じスターリング・サウンドのテッド・ジェンセンにやってもらったんですが、アルバムはグレッグでやろうってことになった。僕らのレコーディング・エンジニアの宮島(哲博)さんの推薦もあって。
EMTG:宮島さんはユニコーンとか奥田民生もやってるから、グレッグをよく知ってるもんね。
田中:そうです。
EMTG:今回、ボーカルの処理が凄くいいね。
西川:音が明るいですよね。
亀井:抜けが凄くいい。
田中:触感が洋楽になりました。それは嬉しかったですね。
EMTG:そして2月には対バン・ツアーがある。
田中:東京はカーネーション、名古屋はアナログフィッシュ、大阪はペトロールズとやります。
西川:対バンは年下のバンドとやることが多いんですが、刺激になりますよね。その後、アルバムのツアーをやりますよ。
EMTG:楽しみにしてます!

【取材・文:平山雄一】

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ビデオコメント

リリース情報

Burning tree(初回限定盤) [CD+DVD]

Burning tree(初回限定盤) [CD+DVD]

2015年01月28日

ビクターエンタテインメント

[CD]
1.Big tree song
2.KOL(キックアウト ラヴァー)
3.死番虫
4.Weight
5.Empty song
6.MAWATA
7.IPA
8.流転
9.アルファビル
10.Esq.
11.サクリファイス

[DVD]
1.「Empty song」Music Video
2. VIDEOVINE Vol.2(RECORDING / SHOOTING / LIVE)

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お知らせ

■マイ検索ワード

●田中和将
FUCHS(ヒュークス) overdrive

高級アンプを作ってるメーカーの、オーバードライブというエフェクターを検索していました。価格比較したりしてたら、ネット立ち上げる度にFUCHSの広告がガンガン出てくるようになりました(笑)。

●西川弘剛
ソパ・デ・アホ レシピ

スペインのにんにくスープなんですが、どうやって作るのかなと思って調べました。結構簡単なんですよ。今度作ってみようと思います。

●亀井亨
アメ横 呑み屋

アジア感のある、いい飲み屋が上野のアメ横にはたくさんあるんです。いいもつ鍋屋が見つかりましたよ。


■ライブ情報

Burning tree presents CAP
2015/02/20(金) LIQUIDROOM
ゲスト カーネーション
2015/02/27(金) 梅田クラブクアトロ
ゲスト ペトロールズ
2015/02/28(土) 名古屋クラブクアトロ
ゲスト Analogfish

GRAPEVINE tour2015
2015/04/03(金) 赤坂BLITZ
2015/04/05(日) Live House浜松窓枠
2015/04/11(土) 高松DIME
2015/04/12(日) Kobe SLOPE
2015/04/18(土) 新潟LOTS
2015/04/19(日) 長野CLUB JUNK BOX
2015/04/29(水) 富山MAIRO
2015/05/01(金) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
2015/05/03(日) 熊本B.9 V1
2015/05/06(水) 横浜Bay Hall
2015/05/10(日) 札幌ペニーレーン24
2015/05/16(土) 広島クラブクアトロ
2015/05/17(日) 福岡DRUM LOGOS
2015/05/23(土) 盛岡Club Change WAVE
2015/05/24(日) 仙台Rensa
2015/05/30(土) なんばHatch
2015/05/31(日) 名古屋ダイアモンドホール
2015/06/06(土) 豊洲PIT

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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