高橋優、最新シングル「明日はきっといい日になる」インタビュー
高橋優 | 2015.06.09
- EMTG:今回のシングルの曲は、どういう経緯で制作が始まったんですか?
- 高橋:「明日はきっといい日になる」と3曲目の「オモクリ監督~9時過ぎの憂鬱を蹴飛ばして~」は、『オモクリ監督』というテレビ番組のプロデューサーさんの言葉がきっかけで制作に取りかかったんです。3曲目は『オモクリ監督』のテーマソングなんですけど、「明日はきっといい日になる」も、そのプロデューサーさんがテレビ番組を作る上で心がけている言葉がきっかけでした。“日曜シンドローム”ってあるじゃないですか。「また明日から月曜日だ。仕事やだなあ……」って、『ちびまる子ちゃん』とか『サザエさん』の放送辺りから感じ始めるという。「そういう憂鬱な気持ちと闘うのがエンタテイメントだと思う」っておっしゃったんです。それは、僕自身がずっとやりたいと思ってきたことに通じるなと感じたんですよね。
- EMTG:今回のシングルは“笑顔”についてじっくり描いた1枚という捉え方もできますが、これは以前から度々歌ってきたテーマでもありますよね?
- 高橋:そうですね。僕、笑ってるのが好きなんです。笑っている時間が好きだし、誰かが笑っているのを見るのがすごく好き。そのためにどうすればいいのかを常々考えながら生きてきたような気がします。そもそも音楽を始めたきっかけも、誰かと一緒に笑っていたかったからなので。僕は今年でメジャーデビューして5年ですけど、心に少し余裕が出てきたところで、そういう想いが改めて浮き彫りになってきたんだと思います。メジャーデビューした当初は「一緒にみんなで歌おう!」なんて間違っても言っていなかったですからね。あの頃は自分の想いを垂れ流すというか。抱いている感情をとにかく表現して、誰かしらにぶつけることをしていたように感じるので。でも、最近はみんなで歌いたいんです。とっても。
- EMTG:変化の理由は何でしょう?
- 高橋:この5年間で光をいろんな人たちに見せてもらったからだと思います。僕は自分が感じてきた悲しみ、孤独、悔しさとかをいっぱい歌ってきたし、自分の根本にあるのはそれなのかもしれない。でも、そういう想いがあるということを叫んでいたのがデビュー当時だとしたら、「そういう想いがあるのは確かだけど、それはそれ。ところでみんなで共有できる話題、みんなでワイワイ騒いで歌える曲ってどんなものだろう?」っていうのをちょっとずつ見るようになってきたのが最近なのかもしれないです。デビューしてからいろんなことがありましたし、悔しかったこともあったんですけど、すごく元気にならせてもらったのが、この5年間。だから僕を笑顔にしてくれた優しさを自分も誰かに放てるようになりたいんです。誰かにとっての優しさってそれぞれ違いますけど、いろんな人にとっての優しい音楽、笑顔になれるような音楽を、自分自身が作りたくなってきたんでしょうね。
- EMTG:一緒に歌って盛り上がることによって笑顔になれるあの理屈を越えた感じって、音楽の力として挙げられるものの1つだと思います。
- 高橋:そうですよね。僕、ちょっと前までは「文章にしなきゃいけない」とか「メッセージをしっかり起承転結でまとめなきゃいけない」って思っていて。そのことによって誰かの価値観を変えたいと思っていたところがあったのかもしれないですけど、それだったら例えば学校の先生とか政治家とかになったりした方がいいですよね。でも、僕はあくまでも歌を歌っていたくて。リズムに乗せて何かを奏でることを今後も生業にしていきたい。そういう自分にやれることって押しつけとかではなくて、やれるのはせいぜいほんのちょっとの提案。あとはリズムとかグルーヴとかでいいのかなと。
- EMTG:心地よいサウンドと共に届ける言葉って、何かしらの力を帯びますよね。
- 高橋:そうなんですよね。あと、僕は最近、言霊をすごく信じていて。やっぱり、「明日は絶対だめになる」って言っている人に、なかなかいい日は訪れない気がするんです。なぜならそれは「だめになりたい」って言っているのと一緒だから。そうではなくて「明日はいい日になるかも」と、ほんのちょっとでもその人の口が言っているのが大事なんだと思っています。だから「明日はきっといい日になる」っていう曲は、電車で譲った座席に座ってもらえなかったということや、MVで出てくる過激ないじめとかがメインの内容なのではなく、「そういう日々を過ごしている人でも、最初は気持ちが伴わなくてもいいから、“♪明日はきっといい日になる?”って口ずさんでみたらどう? いい日になるかもしれないよ」っていうことを濃いエッセンスとして入れたかったんですよね。
- EMTG:言葉って感情を表すものだけど、それとは逆に、発した言葉が感情を導くことも少なからずありますよね。
- 高橋:おっしゃる通りだと思います。人は言っている言葉の方に傾いていくものだから。音楽の持っている最大の力ってそこだと思います。口ずさんだことによってほんのちょっとでも実現したように思えたり。あるいは、本当に実現していく可能性だってあるっていう。
- EMTG:「明日はきっといい日になる」は、「こうなったらいいな」という願いを思いっきり口ずさませてくれる曲ですよ。
- 高橋:《明日はきっといい日になる いい日になるでしょう》って何度も繰り返しますからね。
- EMTG:僕、《明日はきっといい日になる》っていう表現のシンプルさに、とても魅力を感じるんです。アーティストって巧みな比喩とか、いわゆる詩的と呼ばれるような表現をしたくなる欲求もあると思うんですけど、とことんシンプルな表現に想いを託しているところにハッとしました。
- 高橋:先ほど言った「みんなで歌う」っていうことがテーマになってから思うことがあって。歌詞って、テレビ番組とかでよくテロップで流れるじゃないですか。あれを見ないと何を歌っているか分からないっていうのは、僕みたいなシンガーにとってはちょっと致命的だなと。もちろん歌はメロディに乗せて伝えるものだし、後から歌詞カードを見てもらうのもアリだし、それでカッコいい人もいるから、それはそれでいいんですけど。でも、高橋優みたいな人は「何を歌っているのか?」が、かなりのウェイトを占めている気がしていて。できる限り何を言っているのかが分かる歌を書きたいです。そして、その曲が言わんとしていることが、聞こえる一言や1フレーズに集約されている方がいいなと思っています。
- EMTG:僕も文章を書く仕事をしているから心当たりがあることなんですけど、シンプルな表現って勇気が要る面もありませんか? 「難しい表現を使って重みを出したい」とか「シンプルな表現だとバカっぽく見えるかも」みたいな見栄の意識が働くこともあるから。
- 高橋:おっしゃった言葉を借りるなら、僕は今、バカっぽく見られてもいいと思っています。重要なのは僕がどう見られるかっていうことよりも、受け取ってくれた人が口ずさんでくれることの方ですから。たとえ「あいつバカだな」って言われたとしても、「あいつ作った歌、どんなだっけ? “♪明日はきっといい日になる~”とかいう歌だったよな」って口ずさめたら、一瞬でも歌ってもらえたら、それはすごく音楽だと思うんです。1回でも口ずさんでもらえるものになるっていうのが、この曲をリリースする上で大切なことだと思います。デビュー当時の僕が好きな人の中には「高橋、変わっちゃったな」って思う人がいるかもしれないけど、一緒に歌える歌っていうのを、最近の僕は書きたいと思っています。
- EMTG:今回のシングルは、まさにそういう曲が並んだ1枚ですね。
- 高橋:「明日はきっといい日になる」もそうだし、「オモクリ監督~9時過ぎの憂鬱を蹴飛ばして~」もそうですからね。「♪オモクリ オモクリ オモクリ監督~」って何回歌っているか分からないくらいですから(笑)。みんなで歌いやすくて、口ずさみやすくて、誰かに歌ってもらうことで意味が生まれる歌って、なかなか作るとなると難しいんですけど。そういうものを去年くらいからすごく作りたくなっています。「太陽と花」もそうなんですよ。あれの言葉数をすごく少なくしたのもそういうことで。もちろん、これからも感情で歌うようなこともやっていきたいと思っていますし、思いっきり文字を詰め込むこともあるかもしれないですけど、今回のシングルはこっちだったっていうことですね。
- EMTG:リスナーとしても「明日はきっといい日になる」に対して抱く感想は、「とってもいい歌」っていうシンプルなものが一番しっくりきます。これ、無条件に口ずさみたくなるし、素直に「明日、いい日にしたいな」って思える歌ですから。
- 高橋:ありがとうございます。説教くさい歌にはしたくないってことも思っていたんです。2曲目の「ミラー」もそうなんですけど。この曲は、「鏡に写っている自分を見て、“冴えない顔をしている”と思って。その顔を変えるために、鏡に写っている顔に化粧をする」っていうことを描いています。笑顔の化粧を鏡にしたからといって、自分自身は笑顔にならないですよね?
- EMTG:ならないですね。
- 高橋:「どんなに頑張って化粧をしても笑顔にならないのはなぜか? 自分自身が笑っていないからだ」ということ。それって、現実世界に関しても言えることなんですよね。昔読んだ本に「周りの人がおっかない顔をしているのは、要は自分がおっかない顔をしているからだ」って書いてあって。そういう考え方を歌いたかったのが「ミラー」。「笑って欲しかったら自分から笑おう」っていう。
- EMTG:独特な切り口で描きましたね。
- 高橋:そういうことを言い過ぎちゃうと説教くさいものになっちゃいますからね。「明日はきっといい日になる」で1行だけ《いい日にするのさ》なのもそういうことです。そういう部分が前に出過ぎるよりも、楽観的な歌でいいと。「あんまり世の中のことを考えてなさそう」っていう楽観的な顔をして歌うことが、逆にいいんじゃないかなと。でも、こういうシンプルな言葉で歌うのって、簡単なようで難しいんですけど。ピエロみたいなところがあるから。おどけて上手に転んで笑ってもらうピエロって、いろんなことができる技術を持った人しかできないっていうじゃないですか。歌でおどけたり、簡単なものを見せるっていうのも、それと同じように難しいです。今、それをやりたいと思っていますね。
- EMTG:なるほど。あと、今回、「明日はきっといい日になる」のMVの監督をしたんですよね?
- 高橋:そうなんですよ。千原ジュニアさん、バカリズムさん、劇団ひとりさん、女子高生役では女優の恒松祐里さんに出演して頂きました。
- EMTG:劇団ひとりさんが雨の中、ずぶ濡れになりながら歌うストリートミュージシャンを演じていたのが印象的です。
- 高橋:千原ジュニアさん、バカリズムさんとか、全員が集まるシーンなので、短い撮影時間だったんですよ。撮影当日は実際に雨だったんですけど、劇団ひとりさんには直前まで、濡れないように車で待機して頂きました。それで、1回撮ったんですけど、「俺って、雨の中でずっと路上ライブをやっていたやつなんだよね?」っておっしゃって。僕が「そうです」と答えたら、「じゃあ俺、絶対にびしょびしょに濡れてた方がいいじゃん」と。だから、今思い出すと失礼なんですけど、僕は「濡れて頂けるんですか?」と訊いちゃって(笑)。
- EMTG:すごい質問ですが(笑)。
- 高橋:僕がそう言ったら、「濡れよう濡れよう。みんな、傘をこっちに傾けて」っておっしゃってくださいました。それで、スタッフとかが一斉に傘を傾けて雨の水滴を劇団ひとりさんに飛ばしたんですよ。「もっと濡らそう。もっとだよね?」ってびしょ濡れの状態で撮影に臨んでくださって。ほんの一瞬の現場にもそれだけ全力を尽くしてくださった姿にプロを感じて、胸が熱くなりました。作るのはすごく大変だったんですけど、プロの人たちのメッセージとか想いをあのMVに散りばめることができたと思います。楽曲制作とはまた別の喜びを感じた体験ですね。
高橋優は7月にメジャーデビュー5周年を迎える。節目となるこのタイミングで初のベストアルバムをリリースし、故郷の秋田でフリーイベントを開催することも発表されているが、それに先駆けてリリースされるのが12thシングル『明日はきっといい日になる』。本作は「笑顔によって変わっていくもの」を様々な角度から描いた1枚と言うこともできるだろう。タイトル曲「明日はきっといい日になる」は、このテーマを鮮やか浮き彫りにしている。心の奥底にまで真っ直ぐ届いてくる言葉の数々、明るいトーンのメロディが、とても心地よい。口ずさんでいる内に気持ちが自ずと晴れやかになるのを感じる素敵な歌だ。楽曲制作の背景について、本人に語ってもらった。
【取材・文:田中 大】
リリース情報
BRADIO『LA PA PARADISE』
発売日: 2017年10月11日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
1.LA PA PARADISE
2.Baddest
3.LA PA PARADISE(HIDDEN AFRO ver.)
4.Baddest(HIDDEN AFRO ver.)
ビデオコメント
リリース情報
お知らせ
■ライブ情報
高橋優フリーイベント
2015/07/25(土)秋田県秋田市エリアなかいちにぎわい広場
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
高橋優フリーイベント
2015/07/25(土)秋田県秋田市エリアなかいちにぎわい広場
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