THE NOVEMBERS、“新しいポップ”の誕生。新作『Elegance』リリース

THE NOVEMBERS | 2015.10.07

 変拍子やノイズなどエッジーなファクターから出発したTHE NOVEMBERSは、ロックシーンで独自のポジションを築いた。しかしTHE NOVEMBERSの“独自”が破格なのは、エッジーなサウンドをポップとして聴かせるトライを続けていることだ。信じる音楽を多くのリスナーに届ける。もっともシンプルなことを実行しているこのバンドは、そこが破格なのだ。今全盛のEDMにしても、初めは“エッジーな音”だった。それがポップに変わるから音楽は面白い。
 そして今回、“新しいポップ”を作るためにプロデュースを引き受けたのは土屋昌巳。ブランキー・ジェット・シティやGLAYのプロデュースを手掛けた鬼才だ。自身もイギリスのロックシーンで名を馳せている。この組み合わせは、超注目。新作『Elegance』で、THE NOVEMBERSはポップサイドに振り切った。

EMTG:『Elegance』の制作はどんな風に始まったんですか?
小林:10周年なので何かしら出そうと思っていて、どんな作品にしようか考えてました。前作の『Rhapsody in beauty』は、洗練されているかどうかには関係なく、美しいと感じればそれでいいと思う曲を入れた。次はそこから一歩進もうと思って。たとえば“素朴”っていっても、出て来たものをそのままやる素朴さじゃなくて、“デザインされた素朴”っていうやり方もある。それは自分たちでもやってきたことではあったけど、一歩踏み込んでやるには、第三者の眼が必要だと思った。それで、誰かにプロデュースしてもらうのもいいかなと。
EMTG:10周年を迎えたバンドにふさわしいアイデアだね。
小林:はい。2年くらい前から、土屋さんに関わっていただけたら素敵だなと思ってました。僕は土屋さんが参加していたイギリスのバンド“JAPAN”の大ファンだったし、好きなバンドのブランキー・ジェット・シティのプロデュースもしていた。もちろん土屋さんのバンド“一風堂”も、ソロも好きで、耽美の象徴として魅かれたんですよ。
EMTG:土屋さんはJ-ROCKのオリジネーターの一人だよね。80年代から海外に通じる音楽を作ってきた。
小林:そうですね。イラストレーターの上條(淳士)さんと話していて、「土屋さんにプロデュースしてもらうのってどう思います?」って聞いたら、「それだよ!」っていう答が返ってきた。その後、“ROMEO’s blood”のリハーサル・スタジオでベンジー(浅井健一)と昔話をしていたら、ベンジーが「俺も土屋さんにお世話になったよ。電話しとくわ」って言ってくれた。普段だったら、ベンジーはそういうことをすぐ忘れちゃうんです(笑)。でも、その日の夜に電話してくれたみたいで。本当に感謝しています。
EMTG:珍しい!(笑)
小林:それから少し経って、SUGIZOさんの主催している“ギタリスト会”っていうのに行ったら、土屋さんがいた。 挨拶したら、「ベンジーから聞いてるよ。君が小林くんか」って。
EMTG:よかったじゃん! 小林くんと土屋さんは、きっと縁があるんだね。
小林:ご飯を食べに行ってお話をして、そこで土屋さんに正式にプロデュースをお願いしたんです。
EMTG:どんなプロデュースをお願いしたの?
小林:僕らの音楽作りって、足し算だったんですよ。イメージに近づくためにシンセをダビングしたりっていうような。それで元気よく表現することはできるようになった。でも“削ぎ落とす”ことができない。そういう話をしたら、土屋さんが「音楽は彫刻だ」って言って。素材を削っていって形を作るのが音楽。つまり、完成型をイメージ出来てないといけない。僕もそう思ってはいたんですけど、自分で削ることがなかなかできなかったんです。
EMTG:土屋さんのプロデュースは、どうだった?
小林:実際にやってもらったら、想像を遥かに超えてました。 経験則も審美眼も何もかもがカルチャーショックだった。コード進行にしても、僕はたとえば自分なりの“ユーミン的なコード”を今作でよく使うんですけど、 土屋さんはそこに対して、少しひねりのあるキリンジのようなコード使いを提案してくれた。やってみたら、少ししか変えてないのに、驚くほど奥の深さが出たんです。自分たちの曲の変わり具合が嬉しかったですね。土屋さんは「ここ、素敵だね」って言ったところを、絶対に残す。イノセントな曲は、必要以上にお化粧しないで完成させる。THE NOVEMBERSのメンバーも、土屋さんが「素敵」って言ったところを自分で気付いてなかったりした。だから、レコーディングに入っても、土屋さんが“無欲のファーストテイク”を誉めてくれたりして、いろんな発見がありました。THE NOVEMBERSはこのレコーディングで、また一歩、進めた気がします。
EMTG:いいプロデュースだったんだ。
小林:はい。1曲目の「クララ」は、KOLAっていうアプリのプロモーションビデオに提供した曲で、それを録り直したんですけど、曲の最後に音楽理論的には明らかに合っていないと言われるようなパートがあるんです。自分たちはそれを知っててやってたんですけど、土屋さんが「理論は合ってなくて も、気持ちよければオーケー!」って言ってくれた。受け入れてくれたのが嬉しかったです。しかも、よりドラマティックになりました。
EMTG:よかったね。「クララ」は『Elegance』の中でもいちばん優しい曲で、それが活かされてる。
小林:この曲は、娘が生まれて最初に作った曲。正月にテレビで『アルプスの少女ハイジ』を見ながら作りました(笑)。
EMTG:あはは、クララって、そのまんまじゃん。優しい曲になるわけだ(笑)。 で、2曲目の「心一つ持ちきれないまま」では、一転してタイトなロックになる。
小林:これは土屋さんが“生音”を活かそうって言って。THE NOVEMBERSではドラムの音を過剰なチューニングにしたり、加工する事が多いんですけど、この曲は素直に鳴らして、録った音をそのまま使っています。吉木(諒祐)くんの出す楽器の音の良さを活かしたサウンドになりました。
EMTG:「きれいな海へ」は、この前の自主イベント“首”でもやってたね。
小林:この曲に、さっき言ってた“キリンジのコード”のディミニッシュっていう和音が出てくるんですよ。威圧的ではなく、力を抜いて音楽の世界で泳いでいるような感じにしたかった。しっかり言葉と メロディの良さを届けたいと思ってました。
EMTG:すごくポップに感じたな。でも、最後に入ってる「出る傷を探す血」は思い切りハードロックで威圧してるね(笑)。
小林:そうなんです(笑)。レコーディングの最後になって、“次のTHE NOVEMBERSのモード”に入っちゃった。いつもそうなんですけど、作ってる最中に次にやりたいことのモードに行きたくなる(笑)。
EMTG:ってことは、今回も徹底的にイメージしてる音を追求できたってことかな?
小林:はい! すごく楽しいレコーディングでした。
EMTG:土屋さんのプロデュースで印象に残っているのは?
小林:土屋さんに「JAPANの音を現代に再現したい」って言ったら、「JAPANに影響を受けた小林くんの今の音を出せばいいんだよ」って。僕の雑念を土屋さんが振り払ってくれた。素直に出せるようになりました。デザインとデコレーションは違うし、ネガティブな部分を隠す必要はないって。
EMTG:僕が感じたのは、これまでのTHE NOVEMBERS作品の中で、いちばんボーカルが大きいんじゃないかな?
小林:そうなんです。ミックスのときに、土屋さんがどんどんボーカルを上げて、しかも「ユーミンはもっとボーカルが大きいけど?」って言うんですよ(笑)。
EMTG:あはは、それはわかりやすいね。
小林:もっと歌を聴かせたいって僕は思ってたんですけど、自分でミックスしたら、あそこまでは大きくできなかったと思う。そういうところも、土屋さんは背中を押してくれました。
EMTG:いいね(笑)。そして10周年記念ツアーが始まる。
小林:気付いたら10年経ってました。この10年で作ってきたものの集大成のツアーにしようと思ってます。さらに長く続いていく第一歩なので、THE NOVEMBERSの未来を感じさせるライブにしたいです。
EMTG:ありがとうございました。

【取材・文:平山雄一】

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リリース情報

“THE END OF THE WORLD PARTY” TOUR[DVD](仮)

“THE END OF THE WORLD PARTY” TOUR[DVD](仮)

発売日: 2019年11月20日

価格: ¥ 3,800(本体)+税

レーベル: キングレコード

収録曲

横浜BAY HALL“THE END OF THE WORLD PARTY” TOUR Live本編

ビデオコメント

リリース情報

Elegance

Elegance

2015年10月07日

MERZ

1. クララ
2. 心一つ持ちきれないまま
3. きれいな海へ
4. 裸のミンク
5. エメラルド
6. 出る傷を探す血

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お知らせ

■ライブ情報

10th Anniversary TOUR - Honeymoon -
2015/11/02(月)新木場STUDIO COAST / ONE-MAN
2015/11/05(木)心斎橋JANUS / ONE-MAN
2015/11/06(金)京都磔磔 / ONE-MAN
2015/11/08(日)高松DIME w/ cinema staff
2015/11/10(火)松江AZTiC Canova w/cinema staff / OA:Bird In A Cage
2015/11/11(水)広島CAVE-BE w/ cinema staff
2015/11/13(金)福岡BEAT STATION / ONE-MAN
2015/11/15(日)名古屋UPSET / ONE-MAN
2015/11/19(木)新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE w/ cinema staff
2015/11/20(金)金沢van van V4 w/ cinema staff
2015/11/23(月祝)仙台enn 2nd / ONE-MAN
2015/11/28(土)札幌COLONY / ONE-MAN - TOUR FINAL -

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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