様々な形の“愛情”が表現された、きのこ帝国の新作『猫とアレルギー』
きのこ帝国 | 2015.11.16
- EMTG:今作はとんでもなくディープな作品ですね。
- 佐藤千亜妃:ははは、わかってますねぇ。その表現好きです!
- EMTG:同時にすごく愛が詰まった作品だなと。
- 佐藤:愛・・・そうですね、未練というか。
- EMTG:自分の昔のアルバム(写真)をめくりながら、いろんな感情が沸き上がってくるような聴き応えがあります。
- 佐藤:そう受け取ってもらえると、嬉しいです。本質的なところを聴いてくれてるなと。サウンド的には開けたと言われると思うけど、中身は悲しさもあるし、歌詞は決して明るくないですからね。尖った音とは違うベクトルに進んだ深さを表現できました。
- EMTG:今回なぜそういう方向に進んだのですか?
- 佐藤:ぶっちゃけた話をすると、自分が歳を重ねて、10年ぐらいずっと好きだった人が結婚したり、子供ができたりして・・・最初は最大級のショックを受けたんですよ。メンタルもやられてしまい・・・そのタイミングで『ロンググッバイ』(1st EP)ができたんですけど。それから時間を経て、かつて自分が好きだった人が、大切な人を見つけて、幸せになることはすごくいいことだなと最近思うようになって。悲しみに明け暮れていたけど、自分が好きだった人が選んだ人なら、その幸せの形を見守りたいなと。人の人生を肯定するという余裕の中で生まれた楽曲たちですね。ただ悲しいだけじゃなく、すごく良かった思い出だから、大事に心の中に閉まっておこうと。悲しみもあるけど、ズブズブに浸っているのではなく、次の自分の人生に繋げていける希望を音像から感じてもらえるかなと。ある人に向けて書いた曲ばかりで、超個人的なアルバムになっちゃいました。
- EMTG:確かに私的ですよね。
- 佐藤:自分の中の一番の弱みが出たアルバムですね。照れる感じのアルバムです。
- EMTG:メジャー第一弾アルバムで、より多くの人が聴いてくれるタイミングだからこそ、自分の中にある核を出そうと?
- 佐藤:毎回傑作を作らなきゃと思うけど、今回は特に気合いが入っていたかもしれない。大衆にどう届けるのかとなりがちだけど、自分は一人の人に周り周って届くような音楽を作りたいと今回は思いました。CDショップで耳に入った、誰かのお薦めで聴いた、テレビで流れて何だと思ったら、『猫とアレルギー』だったみたいな。自分の中でドラマチックな理想を描いて作りました。もしかしたら、このアルバムは即効性というより、じわじわ広がっていく作品かなと。即効で伝わったら一番いいけど、音楽の力でグイグイ伝わるといいですね。
- EMTG:本当に心に染み渡る作品です。
- 佐藤:染み渡る方がガツンと来る人もいるじゃないですか。夏フェスが好きなキッズにはじわじわかもしれないけど、いつか共感してもらえるタイミングが来てくれたらいいですね。誰かの人生にとって、大切な一枚みたいな作品を作りたくて。
- EMTG:1曲目「猫とアレルギー」はオーケストレーションが入り、また随所にピアノが挿入されているのも今作のポイントです。もはやバンドという枠組みから完全に解き放たれてますね。
- 佐藤:バンド然とした表現もいいけど、バンドがバンドっぽくない表現をする方が面白いなと。バンドっぽさにこだわると、機能的だったり、プレイ寄りになるので、音楽の本質にあるものがつまらなくなる気がして。一番大事なのは心の何かに触れることですからね。フィジカルに行くと、どこかで行き詰まるし、より自由に歌を羽ばたかせようと。
- EMTG:演奏も心のヒダに触れてくるような繊細なフレーズばかりです。今回のレコーディングはいかがでした?
- 佐藤:夏フェスと並行して作っていたので、考える暇もあまりなくて。みんな直感的に音を乗せたから、構築された世界観というより、ナチュラルの極みみたいな感じですね。曲に導かれるまま必要なものを足していきました。音楽はあまり頭でっかちにならない方がいいですからね。
- EMTG:それにしても、前シングル「桜が咲く前に」から今作へのギアの入れ具合が凄まじくて。いつ頃から構想はあったんですか?
- 佐藤:今年に入ってからかもしれない。だけど、もともと自分の中にあるものだし、核に戻ってきたような感じはありますね。『渦になる』(1stミニ・アルバム)が外側の殻だとするなら、それを剥がして剥がして、掘って掘って、心の真ん中にある一番柔らかい部分が出ているかなと。
- EMTG:「誰かを拒むための鎧など 重たいだけだから捨てましょう」(「怪獣の腕のなか」)の歌詞は、まさに今言ってくれたことに通じますね。
- 佐藤:言われたいことや理想を歌詞に込めるようになったんですよ。歌詞の中で出てくる「誰かを拒むための鎧など 重たいだけだから捨てましょう」、「自分を隠すための嘘なんて あなたには必要ないんだよ、ほら」(同曲)というフレーズがまさにそうで。まだ自分は鎧や嘘を必要としている面はあるけど、それは必要ないんだよって言われたいという。願望も歌詞に織り込むようになりました。それが歌詞の世界を豊かにしているかなと。
- EMTG:照れ臭いことも歌詞にできるようになったと。歌詞はメンバーにツッコまれることもありました?
- 佐藤:歌詞にある背景は、いままでの中で一番共有したかもしれない。やっぱり景色が浮かばない音楽はつまらないからですからね。音楽が音楽だけに止まらないように、歌詞をメンバーそれぞれの中で膨らませて、咀嚼してもらい、それでこの音という形で選んでいったと思います。あーちゃんはよく歌詞を読んでくれるけど、今回はリズム隊に関しても「あの歌詞なんだけど・・・」みたいな感じで聞いてくることも多くて。それは伝わりやすい歌詞が多いから、自然と会話も増えたのかなって。それがいままでとは一番違いますね。
- EMTG:歌詞のテーマは共感できる内容が多いですからね。
- 佐藤:誰しも経験したことがありそうなことですよね。女性同士でしか共有できないこともあり、あーちゃんと一緒に「そうだよねえ」ってスタジオで暗くなったりして(笑)。男性からすると、辟易するかもしれないですね。
- EMTG:いや、そんなことはないですよ。今作は終わった愛、実らなかった愛に対して、堂々と真正面から見据えて、高らかに歌うところに本当に感動しました。
- 佐藤:尊敬してますからね。その日々はかけがえのないものだったなと。
- EMTG:感謝の気持ちが溢れてますよね。佐藤さんの中で今それを歌うことでどんな意味が?
- 佐藤:周り周って届けばいいなと。その間にいろんな人に響けばいいなと。大切な人から付けられた心の傷なら、直らない方がいいと思うタイプなんですよ。
- EMTG:えっ? カサブタは無くてもいいと?
- 佐藤:勲章みたいなものなんですよ。人生の半分近く同じ人を好きだったから。神格化されているんでしょうね。ハイパープラトニックなんですよ。
- EMTG:なるほど。ラスト曲「ひとひら」の歌詞にも引き込まれました。特に「ひとひら、ひとひら 燃やす花になる 光って、光って、灯火のようになる」は、僕の勝手な解釈になりますけど、これから一日一日を一生懸命生きて、自分が周りを明るく照らし、誰かにとって温かい光のような存在でありたい、というポジティヴな終わり方だなと。どうですか?
- 佐藤:まさにそういう感じですね。素晴らしいと思う存在に出会ったなら、自分もそういう人間になれるように頑張りたい。誰かに受けた愛情を、今度は自分が誰かに返していきたい。そんなふうに思います。
前シングル「桜が咲く前に」も最高だったけれど、きのこ帝国のメジャー1stアルバム『猫とアレルギー』はいきなり核心に踏み込むような凄い作品に仕上がった。今作は“ある1人の人”に向けて書いた歌詞がほとんどで、失ってから気づく気持ち、感情、もっと言えば愛に満ち溢れたコンセプト・アルバムと言える作風になっている。歌詞は間違いなく過去最高にストレートで、楽曲のど真ん中に佐藤のヴォーカルが据えられ、それをオーケストラやピアノを含む楽器隊が温かく包み込む。センチメンタルな陰から木漏れ日のごとく滲み出たハートフルなメロディが心に沁み入る。これからの季節、今作を抱きしめるように聴きたいと思う。
【取材・文:荒金良介】
リリース情報
配信限定シングル「DANDAN」
発売日: 2019年10月30日
価格: ¥ 250(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージックジャパン
収録曲
01.DANDAN
ビデオコメント
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※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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