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久々に集結した最高峰4人バンドの繊細で激情的なツアー

奥田民生 | 2011.01.12

奥田民生
「OKUDA TAMIO JAPAN TOUR MTR&Y 2010」

2010.11.18@府中の森芸術劇場
2010.12.16@神戸国際会館こくさいホール
2010.12.24@C.C.Lemonホール

久々のソロ・ツアーを堪能しているOTだ。ユニコーンの活動再開以来、"ひとりカンタビレ"は行なったものの、The Verbsをはさんで、OTの愛する豪腕バンド"MTR&Y"での旅は2年半ぶり。こっちが「もうそんなになるんかい?!」と思う以上に、本人が待ち焦がれていたのだった。

まずは2本目、11月18日、府中の森芸術劇場に行った。メンバーが登場すると、いつもより熱い拍手。オーディエンスも待ち焦がれていたのだ。「待ってましたー」の声も飛ぶ。が、ステージ上のセットはThe Verbsと同じ、ソファとライトスタンド。

挨拶がわりにガツンと3曲やっつけてから、OTが口を開いた。 「ご無沙汰しております。ユニ、The Verbsじゃない状況は久々なんですよ。今年中にできて、よかったと思います。全部、ひとりで歌わなきゃいけないから大変。終わってから、この疲れは何?っていうくらい。今回のセットはThe Verbsのをそのまま借りてます」。そう、このオフビートな感じがOT。久しぶりに聴く「E」が、その気分にまったりハマる。

この府中の森は"ゲネプロ"といって、前日に本番さながらのリハをやってそのままOTのツアーの初日になることが多い。「なんかここに来るとゲネプロの気分になる。順調にダラダラやってます」。実際、この日は、いかにもツアー序盤らしいユルユルの出来だった。

 12月16日、神戸国際会館こくさいホール。楽屋にはいろんな種類の豚マンと、あらゆる種類のアルコール・ドリンクがずらり。リラックスした雰囲気が、府中の後の6本のライブの充実を物語っている。そして、やはり、このツアー9本目のライブが凄かった。 バンド・アンサンブルは極上。ドラムス湊雅史、ベース小原礼、キーボード斎藤有太、そしてギター&ボーカルOTが火花を散らす。「人間2」でビシッと始まり、「彼が泣く」でハイスピードのグルーヴを繰り出し、「恋のかけら」で一転、明るくロックする。危険な匂いのするくらいの飛ばしっぷりだ。

「いやぁ、疲れた。この3曲でピークが過ぎました。あとはサラッとやります。今回はそういう感じで、お客さんも何となく納得して帰ってもらってます」とOT。絶好調ならではの発言だ。最新アルバム『OTRL』からの「音のない音」では、小原と斎藤のコーラスが美しい。それだけにOT初期の代表的ハード・ナンバー「ハネムーン」のダークネスが心を撃つ。MTR&Yならではのテクニックとスピリットが、一度はソロ初期にライブで完成したこの名曲を生まれ変わらせている。

さらにOT自身も大好きという「イオン」のメロディが、リリカルに表現される。極限と余裕が同居する4人の演奏は、一触即発のスリルと大人のやさしさを含んでいて、この上なく素晴らしい。奥田がこのバンドでのツアーを心待ちにしていた理由は、ここで繰り広げられる"演奏する楽しさ"に尽きるのだろう。

「そんな感じで、来年もいろんなことをやりたいと思います。みんなにはマイペースと言われてますが、どこがやねん?、年々、忙しくなってます。ツアーはいいんですよ、旅行だから。曲、作んなくていいし。昔の曲ばっかりでいいですか? (ここで会場から賛成の拍手が起こる)・・それはそれで、腹立つ(笑)。礼さんが来年、還暦だから、60本やりますか。ベースで弾き語りとか。還暦になるまで生きたいよね。なったら曲、作らなくていいよね」とOTは満面の笑みを浮かべる。この笑顔が見たいから、オーディエンスはOTに拍手を贈るのだ。もちろん新曲も楽しみだけど(笑)。

 セットリストは『OTRL』の1曲目「最強のこれから」に始まり、ラストの「解体ショー」に至る"最強のショー"に突入。意図のはっきりしたバンド演奏に、ぐんぐん会場の熱が上がっていく。ステージの背後を覆っていたカーテンが開き、4人のシルエットがそこに映し出される。ライティング・スタッフの見せ場でもあり、シルエットから4人の演奏への集中が見て取れて、興奮は最高潮だ。特に「まんをじして」がよかった。完成度の中にときおり混じるラフさがとても快い。現在最高の4人バンドと断言できるパフォーマンスだった。

「ツアーもあとちょっとですが、(ステージ上で酒を)2杯呑んだのは初めて。そういうことで、よいお年を!」。ダブル・アンコール「イージュー☆ライダー」がMTR&Yのナンバーとして、ぶっといビートで歌われたのだった。

 こんな日の打ち上げは、盛り上がる。エンジン全開のライブだったと僕が感想を言うと、礼さんが「そういうときって、ベースの弦を強く弾くんじゃなくて、ほんとに触ってるだけ。"いらってる(いじってる)"だけ。そうすると太い音が出るんだよ」と達人の心境を語ってくれる。OTも呑みながらうなづいている。エキサイトしているときこそ、クールにプレイする。MTR&Yの真髄に触れた気がした。

 名古屋をはさんで、11本のツアーの最終日は渋谷C.C.Lemonホールだ。「クリスマス・イブに来ていただいて、もっと他にやることがあったでしょうに」と、のっけから笑わせる。久々の4人での短いツアーの名残りを惜しむかのように、思い切りのいい演奏が続く。自信に満ちたバンドサウンドが、ホールの隅々までを揺らす。

「ひとりカンタビレのテーマ」では、ギターのリフを斎藤がクラビネットでカバーしたり、"ひとりカンタビレ"でOTがあんなに苦労した「最強のこれから」のキーボードのパートを、軽々と弾いて楽しませてくれる。神戸の出来を越えたのは「サウンド・オブ・ミュージック」だった。軽快なリズムを、4人の暴れん坊たちがムチャクチャにスィングさせる。音と音の隙間を活かして、スカスカのサウンドなのにエネルギーが吹きこぼれる。MTR&Yのベストサウンドがここにあった。

 アンコール「あくまでドライブ」は全会場でやってきたように、客にステージのソファに座ってもらって、それを取り囲んでの演奏。この日は映像収録が入っていたので、ソラミミストの安斎肇さんと、後輩ミュージシャンのOKAMOTO'Sのハマ・オカモトが着席。会場がおおいに沸く。

ラストの「イージュー☆ライダー」で、両足を踏ん張ってギターを弾くOTは、力強いロック・スピリットにあふれていた。今、OTはギター・プレイもボーカルもアブラが乗り切っていて、何度目かの旬を迎えているのは間違いない。

さて、2011年はどんなOTに出会えるのだろう。楽しみでワクワクする。

【 取材・文:平山雄一 】

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