1人で楽器類をこなし歌を聴き手に贈った、さかいゆうのツアーファイナル
さかいゆう | 2011.05.20
「さかいゆう TOUR 2011“ONLY YU”♯1」――このタイトル通り。そのライヴスタイルは、まさに、さかいゆうだけに、“オンリー・ユウ”な内容であった。
3月13日に予定されていた全国ツアーの初日。その振替となった本公演は、実質的な今ツアーのファイナルライヴとなった。
19時過ぎ。薄闇に沈んでいたステージ後方から、まばゆい照明が客席に注ぐ。ステージ中央、薄いブルーの光の中浮かび上がったのは、ぐるりと本人が座るであろう椅子を囲む幾多の機材のシルエット。本人の“部屋の一部”を想像させるそのセットは、コンパクトで高性能なミュージックベース(音楽基地)のようだった。その中に、赤いハットを被り登場した、さかいゆう。右手をあげ、客席に一礼。拍手と声援を受けながら、中央の鍵盤の前に座った。スタンバイ。大きく息を吸った彼のヴォイスパーカッションから、この日のライヴはスタートした。
そのヴォイスパーカッションでリズムを刻む。その声をマシーンに取り込み、ループさせる。そこにまた違う音を取り込み、さらに重ねてル―プ。ひとつだった音の要素が、ふたつに増えている。それを繰り返す。自分の声と、様々な楽器を使い、パートをどんどん重ねて行く。あっと言う間に、楽曲の輪郭ができあがっていく。
印象的なメロディのフレーズ、鍵盤が奏でる和音が、輪郭の中に、表情を加えていく。途中、曲に合わせながら「ワッツアップ渋谷! ファイナルです! 盛り上がっていくぜ!」と、観客を煽るシャウト。観客は、曲に合わせた手拍子と、思い思いの掛け声で、彼のパフォーマンスに応える。SEの「ONLY YU theme」。そのラストで、さかいゆうは、鍵盤を乱打するように、ホンキートンクな音色を響かせながら、こう叫んだ。「“ONLY YU ツアー”本編始めるぜーっ! まずはこの曲!「AHEAD」!」さかいゆうが、目の前で作ってみせたサウンドは、一呼吸おいて、鮮やかに本編1曲目「AHEAD」につながっていった。
3曲終わったところでMC。「改めましてさかいゆうです!」と第一声。「ツアーファイナルでちょっと興奮してます、渋谷PLEASURE PLESUREは元映画館で音も良くて好きな会場です」と言った後、最後はこう締めくくった。
「1人なんで。すごくやる事が多くて忙しくて(笑)。これからは皆さんを煽っている余裕が無いと思うので、どうぞ、勝手に盛り上がってください(笑)」
この言葉どおり、さかいゆうは、アンコールを含め全14曲を、1人でやりきった。約2時間のライヴの中では「自分の音楽人生の中ですごく影響を受けた1人」と、山下達朗の「FUTARI」、マイケルジャクソンの「Rock With You」と、彼のルーツがわかるカバー曲も披露。さらには、震災を受けレコーディングし「この曲が歌えたのも素晴らしいミュージシャンのおかげです。出逢えてHAPPYだと思ってます」と、音楽に対する向きあい方を感じられる童謡カバー「故郷(ふるさと)」も、アカペラからのピアノ弾き語りで届けられた。
前述したヴォイスパーカッションから、ピアノ、ピアニカ、ベース、ギターなどと、手にした(口にした?)楽器だけでも数種類。そこにリズムマシーンや、ループマシーンなどの機材を加えたら、どれほどの数になったのだろうか。そのすべてを操り、演奏から歌、時にはリバーブなどの出音の調整までしながらも、思いっ切りライヴを楽しんでいた、さかいゆう。
まさに、八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をし、本当に一時たりとも休む暇もなく、体を動かしていたその姿もじつに手際よく爽快だったが、ライヴ中、何度となく飛び出た笑顔が、いちばん印象的だった。
今回のライヴの方法論は、ちょっと乱暴に言い切ってしまうならば、本人の宅録の様子を彷彿させるあたり、1人レコーディング・ショウとでも言えたろうか。この方法自体は、今の音楽シーンにおいては、決して珍しい手法ではないが、それを2時間ぶっつづけでやってライヴが成立するアーティストは、なかなかいないだろう。
なぜ、さかいゆうは、成立しているのか。
それは、彼のパフォーマンスが、非常に優れているからだと思う。機材を駆使するという、ともすれば、無機質になりがちな手法を、見事に自分の中で昇華して、有機的なサウンドに仕上げている。事前にバックトラックをほぼ作らず、すべてその場で演奏して作っていくというDIY感覚もそのサウンドに影響していると思うが、それよりも、彼の持ち前のフィジカルさが、打ち込みのサウンドに命や体温を吹き込んでいるのではなかろうか。
この日、さかいゆうが1人で奏でたサウンドのグル―ヴは、しっかりとバンドサウンドとして、私の体に刻まれた。
さかいゆうという1人バンド、恐るべし。
【取材・文:伊藤亜希】
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リリース情報
セットリスト
- AHEAD
- ケセラセLife
- ソングライダー
- FUTARI ※カバー曲(山下達郎)
- ウシミツビト
- 無言の月
- 週末モーニン
- SHIBUYA NIGHT
- It’s YOU
- train
- ストーリー Encore
- Rock With You ※カバー曲(マイケル・ジャクソン)
- 夏のラフマニノフ
- 故郷(ふるさと)※童謡カバー曲