EMTG：シングル「君と僕の挽歌」のとても真っ直ぐでオーソドックスな詞曲のアプローチに驚きました。

さかい：あれは震災後、初めて書いたリリックなんですよ。シリアスに行かないと前に進めないと思って作ったので、オーソドックスに聴こえるのかもしれないですね。僕は自分の中の悲しい出来事じゃないと歌えない。僕は被災者じゃないから、そこを踏まえて書くのは大変でした。で、これが出来て、アルバムの事を考えたら、他の曲も自分でリリックを書いたら全部「君と僕の挽歌」みたいになりそうだったので、後の曲は他の人に頼もうと思った。それでも何曲かは自分で書けたので、残りの曲を森雪之丞さんや、ふかわりょうさんたちにお願いして。作詞の方には「僕にフィットするかどうかは考えないで、自分の言いたいことを書いてくれませんか」って頼みました。

EMTG：雪之丞さんは「サンバ☆エロティカ」のリリックを書いてますね。

さかい：雪之丞さんは“ちょうどの言葉”っていうか、物事に対してカマトトぶらずに、ちゃんと言う。それがすごくよくて、ハマっちゃいました。詩集も買って読みました。で、ご本人から「飲みに行きませんか？」ってメールをいただいたんですけど、僕は“ポエムの国の住人”は宇宙人だと思っているので、リスペクトを込めてお会いしないようにしてます(笑)。

EMTG：「パスポート」の作詞のふかわさんはナイス・セレクト！　お願いしてみて、どうでした？

さかい：予想した以上に真っ直ぐな歌詞で、面白かったですよ。歌録りの日に来ていただいたんですけど出来上がったリリックをふかわさんに歌ってもらったら“半拍”多かったりして(笑)。

EMTG：一方で、アルバムの最後に入ってる「パズル」のリリックが鋭い。小谷美紗子さんの書いた♪この世の淋しさを知って　誰かに会いたい　だから生きたい♪というフレーズが、アルバムを締めくくっている。

さかい：震災を踏まえたものだと思うんですけど、この言葉は僕は書かない。だから、これも他の人にお願いしたからこそ出てきたリリックだと思います。

EMTG：僕は「されど僕らの日々」の今西太一さんの歌詞がよかった。

さかい：シブいところ、来ますねえ(笑)。

EMTG：抑えているけど、秘めている想いがあふれてると思った。

さかい：きれいな曲になるだろうなと思ってました。演奏はピアノトリオでやってるんですよ。ライブの中盤に歌いたい曲ですね。

EMTG：今回はギターは一切入ってなくて、基本的にはピアノトリオでレコーディングしてますが。

さかい：最初からピアノトリオで行こうって決めてました。雰囲気でストリングスを入れた曲もあるけど、ライブを意識して再現性のある音にしようと。このところ10代から20代のミュージシャンの演奏を聴いてチェックしてるんだけど、一部だけ突出して上手い人はいても、今回の僕の曲はJ-POPを弾きなれた人じゃないと無理だろうなと思ってた。それで、ドラムはFUYUくん。彼はMISIAさんのライブで見て、ポップさとクロさのバランスがいいと思った。音に説得力があるし、身体能力もすごく高くて、たとえば「パスポート」とかで彼の良さが出てると思う。ベースは種子田さんにお願いしました。二人とも喜んでくれて、「この３人でツアーに出たいね」って話したり。

EMTG：すでにツアーの話にもなってるんですね。

さかい：今回のツアーは３人で回れそうです。たぶん一回ごとに演奏が変わるようなツアーになるんじゃないかな。二人は「演奏しながら、グッと来そうな曲ばかりだね」って言ってます。アルバムの曲は全部やりたい。完成度よりも“曲を聴かせる”ツアーになると思います。かっこいいことをやろうとは思わない。メロディとリリックが伝わればいいなと。

EMTG：最後に、この『How’s it going?』は、メジャー・セカンドアルバムになりますが、自分としてはどんな位置付けになりますか？

さかい：このアルバムを聴き直すと、歌とメロディの比重がとても多い。世界観は完成しているけど、音としては未完成な感じもしますね。ここに入っていない、いろんな音が聴こえてきますもん。でも、今回はそれを敢えてやっている感じですね。まだわからないけど次のアルバムはまた違ったものになると思います。

【取材・文：平山雄一】