純粋さ、無邪気さの向こうに圧倒的なクオリティを見せた、Salyuのステージ
Salyu | 2011.05.27
ボーカリストというよりも、表現者、否、己の中に流れる音楽の源流を自らの声を使って解き放つ体現者、と言ったほうがいいかもしれない。 日本の音楽シーンの中で、独特の存在感を放ち、そのスタンスを突き詰めてきたSalyu。デビュー以降の活動、世に送り出す作品群のクオリティから、そのスタンスは、既に、唯一無二。圧倒的なボーカル力もあり、フォロワーさえ出て来なかったのがその証拠だろう。 その彼女が、さらに音楽の新たな体現方法を追求するためにスタートさせたプロジェクトが“salyu × salyu(サリュバイサリュ)”である。
このプロジェクトの第1弾として、コーネリアス(小山田圭吾)を共同プロデュースに迎え、作りあげたアルバムが4月に発売されたアルバム『s(o)n(d)beams』。この作品は、日本屈指のサウンド・クリエイター・小山田圭吾の世界観が色濃く反映され、ジャンルを自在に超えるサウンド・コラージュの技を堪能できる1枚となった。しかしながら、このコラージュの軸となったのが、Salyuの声、メロディー、ハーモニー、である。まるで重力から解放されたように、自由に行き交う、声の数々。それはまるで、サウンドという宇宙の中で、煌めき続ける無数の星、漂う惑星のようでさえあった。
重力を感じないほど、自由な歌声がそこにはあった。
このアルバムのリリースを受け、行われた全国ツアー「salyu × salyu tour s(o)n(d)beams」。そのファイナル公演が、5月6日、東京・中野サンプラザで行われた。
前述したアルバムが、これまでとまったく違うスタイルの作品だっただけに、その世界観を、どう再現するのかに注目が集まった。ゆえに、会場は満員。
開演予定時刻の19時30分を少し過ぎた頃。薄闇に沈むステージの中に、Salyuが1人でステージに姿を現す。ステージの中央には、メトロノーム。そのメトロノームの針を指ではじくSalyu。カチカチカチ……というメトロノームの音だけが、会場を彩って行く。本人にそっくりな髪型&似た格好の女性3人が出てくる。遠くから見ると、Salyuが4人いるようにも見える。その光景に、息をのむ客席。緊張感ある静寂の中、Salyuの声だけが、アカペラで響き渡っていく。「It’‘s a fine day」。バンドメンバーも登場し、間髪いれず、2曲目「ただのともだち」へ。
アグレッシヴなコーラス・ワーク、シンプルなリズムとフレーズで進行していく、インパクト大のスリリングな曲。アルバムのオープニングを飾る1曲だ。salyu × salyu第1弾の象徴的な楽曲のひとつ、と言えるだろう。
2曲目が終わったところでSalyuのMC。
「今日は“「salyu × salyu tour s(o)n(d)beams”にようこそ。最後まで好きなように楽しんでいってください」と挨拶した。
最新作をライヴで再現するにあたり、本人が最初に考えたのが、コーラス隊を揃える事だったそうだ。幼少の頃、合唱隊に在籍していたSalyu。当時、一緒に歌っていた友人に声をかけた。実際に、今回ステージに立ち、共にハーモニーを紡いだ竹馬の友もいたと言う。この、自分を含む4人の女性合唱隊ーーsalyu × salyu sistersと命名。歌うだけでなく、様々な楽器を操り、八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せたーーを中心に据え、次々と披露されていく最新アルバムの収録曲。「歌いましょう」では、Salyuが1人だけステージに残り、サンプリングマシーンとループマシーンなどを駆使し、観客の目の前でタネあかしよろしく、1曲を完成させていくというパフォーマンスも披露。ボーカリストとしてだけでなく、クリエイター&ミュージシャンとしての一面も、しっかりと見せた。
中盤。「自分の初めてのリリース作品。改めて歌いたいと思います」と、Lily Chou-Chouとしてリリースした「グライド」。照明が、ステージ上に白く丸い模様を描く。その模様が、くるりくるりと、ロンドする。「レインブーツで踊りましょう」。最新作の中でも、コラージュ色が薄く、純粋に本人の歌声のバリエーションを堪能できるメロウ・チューンだ。続いて「s(o)un(d)beams」へ。リズム、メロディー、ハーモニー。この3つの要素を、打ち込み、生演奏、そしてsalyu × salyu sistersの声を使い、再現していく。ハモるリズム、うねるメロディー、楽器と声のハーモニー、別々に進行していたいろんな要素が、少しずつひとつにまとまり、楽曲の輪郭を形どっていく。♪Fu Fu……♪ とソプラノでリズムを刻む声に完全にリンクし、消えたりついたりする白色の電飾(LED)。かと思えば、次には、ドラムのリズムにリンクして、ライトが点いたりする。
サウンドの視覚化。しかも実際の演奏との完全リンク。映像ではお目にかかった事のある手法だが、ライトでこれだけ精密にリンクした演出を観るのは初めてだった。しかも、全編、ラィティングだけという構成。それもほとんど色を使わず、80パーセント以上、白明かりだけという演出方法だった。
これが、ばっちり、今回のsalyu × salyuの世界観に合っていたと思う。キーワードであげると、アンティーク、教会、木漏れ日、なイメージ。非常にストイックな世界ながら、じんわりとした暖かみを感じるあたりは、最新作の作品性を、しっかりとライヴに落とし込んでいた証拠だろう。
こんなライヴスタイル、初めて観たという人も、多かったのではないだろうか。1度観ただけじゃわからない複雑なアプローチに、難しいと思われがちなスタイルであったと思うのだが、それはまこと、懸念であった。
SalyuはMCで、自分の原点は合唱にある事、そのハーモニーをより追求したいと思い、今回のアルバムを作ったと言った。そして、この日のSalyuの様子は、まるで幼少時代の彼女を彷彿させるものだった。彼女は、思いっ切り口を開けて、心底、ハーモニーの楽しさを堪能し、体現していたと思う。シンプルに歌を楽しんでいた。そんな彼女の純粋さが、全編に満ち溢れていた。
しかしながら私は、この純粋さ、無邪気さの向こうに、今回のライヴの圧倒的なクオリティの秘密があったように思う。
子供の無邪気さは、予想不可能。そのスリリングさが、緊張感をキープし、サウンドの、もっと言ってしまえばライヴのクオリティにつながったのではあるまいか。
アンコールも含め全18曲。アルバム『s(o)un(d)beams』収録曲は、全11曲、すべて披露したこの日のステージ。
最後は、salyu × salyu sistersの ”♪By Bye See You!”というハーモニーで、幕を閉じた。
【撮影 古渓 一道】
【取材・文 伊藤亜希】
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リリース情報
セットリスト
- It’s a fine day
- ただのともだち
- muse’ic
- Sailing Days
- 心
- 歌いましょう
- 天使と羊飼い
- グライド
- レインブーツで踊りましょう
- s(o)un(d)beams
- Hostile To Me
- 新しいYES
- Mirror Neurotic
- 奴隷
- 続きを Encore
- HALFWAY
- to U
- Hammond Song