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奥田民生の全国ツアー「おとしのレイら」。そのファイナル公演には大サプライズが!

奥田民生 | 2012.02.15

 “OTR&Yおとしのレイら”ツアーは、奥田民生のソロ史上、最もロック色の濃いツアーだ。その印象の源は、前半の攻撃的なセットリストにある。
最初の3曲はすべてOTのシャープなギターからスタート。オーディエンスの期待を込めた歓声の中、登場した奥田が「ギブミークッキー」のイントロをかき鳴らす。ステージを真紅に染める照明が、スリリングな気分を盛り上げる。
続く「ルート2」で小原礼(b)、斎藤有太(kyd)、湊雅史(dr)という超実力&個性派バンドマンが、パワー全開。それを受けてOTが「シブヤー!!」と叫び、素晴らしいギター・ソロを決める。たった2曲で、バンドがいきなりトップギアに入るところが凄い。
明るい曲調の「わかります」で、今度は斎藤のオルガン・ソロが冴え、4人の勇姿がステージ背後のスクリーンに映し出されると、軋むような緊張感が解放される。今回のツアーを観るのは5回目だが、その中でも最高の滑り出しだった。
するとOTが嬉しそうに「最初の3曲がうまくいったので、もういいです。今日はありがとう。また来週!」。
多分、これは本音だ(笑)。場内は大爆笑。「このツアーは去年からやってます。礼さんが還暦で“おとしのレイら”なんで、各地でみなさん、あたたかかった。ありがとうございます。今日で終わりです」。

 「夕陽ヶ丘のサンセット」はシングルのカップリング曲。シブイ選曲だ。ちなみに今回のセットリストで、前回のツアーと重なる曲はたった1曲しかない。このバンドでいろんな曲を演奏したいというOTの気持ちが伝わってくる。攻めのギターロックは、「ライオンはトラより美しい」まで小気味よく続いた。

 ここからはギアが変わって、遊び心たっぷりのパート。人気曲「ロボッチ」は、まるで“にらめっこ”。4人がお互いにアイコンタクトしながら我慢比べのように、ギリギリの超スローテンポで演奏する。つられてオーディエンスも、手に汗握りながらリズムに乗る。スリルがいちばん高まったところで、会場から「イェー!」と声が上がった。最高の観客だ。
 還暦を迎えた小原が歌う「ダンス・ハ・スンダ」、「監獄ロック」(“還暦ロック”と替え歌になっている)は、OTの気合の入ったハモが楽しい。そこにはOTの礼さんへの“お祝いの気持ち”が込められている。
「今日のライブを録音して、そのままCDにして売ってます。そういう実験をいろいろやってみようと思ってます。ライブを観て、その音を聴くのは楽しいみたいよ。だからって、勝手に録音しないでよ(笑)」。そう、このツアーの東京公演はすべてライブ録音され、予約できた人はその日の帰りに出来たてのCDをお持ち帰りできるのだ。直しのきかないこの企画は、高い演奏力と、毎回異なる演奏ができるアーティストにしか許されない。もちろんその資格のあるOTは、シーンの先頭を切って実現に踏み切った。日本にあと何人この企画のできる人がいるかは分からないが、音楽ファンには待ちに待ったトライアルだ。

 そして終盤が感動的だった。陽水のカバー「最後のニュース」は悲惨な現実を描く叙事詩で、OTが歌うと、昨年から続く日本の状況に重なる。それを踏まえて次の「解体ショー」を聴くと、♪かばんに入れて全部持っていくかばんに詰めてちゃんと持っている♪という歌詞に、大きなものを失った人々に対する思いやりが伝わってくる。そうして、民生は最後の「明日はどうだ」で、♪お前の明日はどうだ♪と力強く歌う。
聴いていて、これはこの時代に暮らすすべての人々への、OTならではの優しいメッセージに違いないと思った。OTはMCではそんなことを決して言わない男だが、僕は何度か“おとしのレイら”に足を運ぶうちに、このセットリストに込められた思いに気付き、ファイナルのこの日、それを確信した。奥田民生とは、そういう男なのだ。世間から超然としているようでいて、思いやり深いアーティストなのだ。

 ツアーはすべて終わったのだなとぼんやりしていると、アンコールでOTとともに現われたのは、斉藤和義と吉井和哉の二人だった。
「斉藤くんのライブを長崎に見に行ったら、アンコールで『一緒にやろう』って言われて、やったら温かい拍手をもらって。その流れで今日は・・・。で、斉藤くんの隣にいた吉井くんもどーぞって(笑)」とOT。

「普通に見に来ただけなのに」と吉井。

「歌い分けはどうすんの?」と斉藤。

「1番は斉藤くん、2番は俺。あとはセンスで。ま、始まったら終わります(笑)」とOT。

 ソファにギターを抱えた斉藤と、タンバリンを持った吉井が座り、OTはその横の椅子に座る。始まったのは「息子」だった。
 まず斉藤が歌い出す。OTの歌をすっかり自分のものにしていることにビックリ!しかし曲の進行については不安そうにギターを弾いているので、これは本当にリハーサルなしなのかもしれない。さらに最初のサビで吉井がハモを付けるのだが、少しハズし気味。しかし、次のサビでは早くもばっちりハモる。そう、やっぱりこれはガチのセッションなのだ。そう思った途端、鳥肌が立った。
 「リハしてません」と言いながら“上手”なアンコールによく出くわすが、これは正真正銘のリハなしのパフォーマンス。音楽で真剣に遊ぶことがモットーのOTらしい“ゲスト招待”に、快く応じる斉藤と吉井のミュージシャンシップが素晴らしかった。3人の仲の良さは知られているが、音楽を通じて結ばれた3人の信頼感を目の当たりにして、嬉しくなった。

 最後の最後はMTR&Yの「さすらい」。4人はジェネレーション・アンセムとなった名曲を思い切り演奏して、思い残すことなくファイナルは幕を閉じたのだった。


【取材・文:平山雄一】
【撮影:TEPPEI】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 奥田民生

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リリース情報

拳を天につき上げろ

拳を天につき上げろ

2012年01月11日

ソニー・ミュージックエンタテインメント

1. 拳を天につき上げろ
2. EBm
3. 拳を天につき上げろ (Instrumental)

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セットリスト

  1. ギブミークッキー
  2. ルート2
  3. わかります
  4. 夕陽ヶ丘のサンセット
  5. 何という
  6. フロンティアのパイオニア
  7. ベビースター
  8. ライオンはトラより美しい
  9. ロボッチ
  10. かたちごっこ
  11. ダンス・ハ・スンダ
  12. 還暦ロック
  13. 手紙
  14. MANY
  15. 最後のニュース
  16. 解体ショー
  17. 御免ライダー
  18. 明日はどうだ

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