ハイセンスに楽しめた大橋トリオの渋谷公会堂ライブ
大橋トリオ | 2012.04.06
2009年のデビュー以降、ハイペースで活動を展開している大橋トリオ。クオリティ高いオリジナル作品のリリース、シリーズ化しているカバーアルバムのリリース、他アーティストのアルバムへの参加、他アーティストとの幾多のコラボレーション、映画や連続ドラマでの音楽担当、そしてフジロックを筆頭に数々のフェスやイベントに出演と、活躍の場は多岐に渡る。特にこの1年で、アーティストとしての認知度が、名前と楽曲の同時進行でグンと浸透した印象を受けるのは、それだけ彼がしっかりと自分の音楽を世の中で鳴らしているからだろう。
その証拠に、この日も、平日(というか金曜日)にも関わらず、客席は観客で埋め尽くされた。
昨年12月に、2枚同時発売されたアルバム『R』と『L』。このアルバムを携えての全国ツアー「大橋トリオ 2012 コンサートツアー“RとL”」のファイナル公演が、3月23日、渋谷公会堂で行われた。
19時。会場がスッと暗転する。観客の拍手の中、バンドメンバーが1人ずつステージへ。それぞれが持つ、アンティーク風のランプの灯が、ちらちらと揺れる。ステージ後方には、ヨーロッパ中世の教会地図(=キリスト教の思想を広く世に知らせる目的で作られた絵巻のような地図。知り得た事柄を想像で地図に描き込んだ)を思わせるような、布に書かれた絵が飾られている。その中には、笑顔の太陽とともに『L』そしてLOVE、月とともに『R』そしてREALの文字が。会場の拍手がひときわ大きくなる。ステージ前方に、シルクハットを被ったシルエットが浮かぶ。見覚えあるその帽子の影に、客席から歓声があがった。オープニングを飾ったのは「トリドリ」。エンディングでは、大橋がグランドピアノをバンドメンバーと連弾! 途中で場所を入れ換わるなど、最初からプレイヤーとしてのマルチぶり&観客を盛り上げるパフォーマンスを披露した。アコースティックギターで「ユニコーン」、エレキギターに持ち替え「Tea for Two」と続けた後、この日最初のMC。
「どうもこんばんわ、大橋トリオです。たくさんの皆様にお集まりいただき、ありがとうございます。ツアーファイナルでございます。ぜひ、最後まで楽しんでいってください」と挨拶した後、少しマイクから離れて、フーと大きく一息ついた。この姿に、客席のあちこちから感想を漏らす声が。音楽を存分に楽しめる、いい意味で観客側がリラックスしたムードが、会場を満たして行く。
「A BIRD」。薄く沈むステージに、鳥の鳴き声が響いていく。大橋のライヴではお馴染、鳥の鳴き声を鳴らす楽器(=両手でひねるようにして鳴らす小さな木の楽器)。今ツアーでは、建築デザインユニット・GEOGRAPHの"BIRD ECHO"とコラボして、限定のツアーグッズとして販売した。"BIRD ECHO"を楽しそうに鳴らしながら、大橋が客席に声をかける。「皆さん御一緒に~」。この言葉に、会場から、たくさんの鳥たちの声が、ステージに向かって飛んでいった。
中盤では、3月21日に発売されたばかりのカバーアルバム『fake book III』の話題に触れ、収録曲の「自由の街」と「ラブリー」を披露。前者は、本人が劇中音楽を担当した連続ドラマ「ハングリー!」提供曲のセルフカバー。オリジナルはスピード感あるシンプルなロックチューンだったが、この日は、テンポをあまり変えずにジャズティストにリアレンジ。ホンキートンクなリズムがフィーチャ―されたバンド感あふれる演奏だった。そして後者は、1994年に発売された小沢健二の大ヒット曲。AORティスト&極上のポップス感溢れる、この煌めきナンバーを、スウィングするリズムをフィーチャ―したハイセンスなジャズ&ポップスに仕上げ、会場を沸かせた。
「結婚して長いカップルも、そうじゃないカップルも、きっとすべての男子が、嫁さんに対して思っているんじゃないかなと、思っている事を、変わりに歌わせていただきます。男子っていうのはね、可愛いんですよ」とコメントし、アップチューンの「HONEY」へ。スケール感のあるバラード「COLD LETTER」と続けた後、再びMC。大橋は、東日本大震災から1年経った事に触れ、最後こう締めくくった。
「改めて、僕は音楽に自分の気持ちを込めてるのかな、と。そういう思いで作った曲です」
木漏れ日を思わせる淡い光が、ステージに降り注ぐ。本編最後を飾ったのは、三拍子のリズムが印象的な「アネモネが鳴いた」。この曲を聴きながら、私の中で、イメージが広がって行く。三拍子、ワルツ、ロンド、回転、地球と紡がれたイメージは、曲が終わる頃には、明日へ、そして未来へとつながっていった。
アンコールも含め全15曲。約2時間のステージ。ライヴの最後に演奏された「わすれない」で大橋は、1人でグランドピアノを弾きながら、ロマンチックなメロディと歌声を響かせた。
曲の前に残した、こんな言葉と一緒に。
「最後に1曲、歌いたいと思います。というか、本当にありがとうございます。もっと頑張っていい曲を作って、いいライヴをしていきます!」
知識とセンスが、フィジカルに躍動する――そんな、大橋トリオをというアーティストの音楽に対する姿勢、音楽の楽しみ方を確認できるライヴだったと思う。なんというか……ナイスな大人が、頭(知識)に偏らず、体を使って遊んでる感じ。その姿が、じつに魅力的だった。
ほんと、男子っていうのは、可愛いんですね。
【取材・文:伊藤亜希】
【撮影:堀 清英】
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リリース情報
セットリスト
- トリドリ
- ユニコーン
- Tea for two
- ゼロ
- ホルトノキ
- A BIRD
- Be there
- 自由の街
- ラブリー
- HONEY
- COLD LETTER
- アネモネが鳴いた
- モンスター
- BING BANG
- わすれない