ニューアルバム『MAGIC』を掲げたスペシャルライブが、恵比寿ガーデンホールで12月18、19日に開催。その初日を観た。

　このライブは毎年12月 恒例のイベント“L’ULTIMO BACIO”の一環として行なわれた。雨の中、やってきたオーディエンスを迎えたのは、都内屈指の美しさを誇るガーデンプレイスのクリスマス・イルミネーションと、会場のロビーにセットされたフードやドリンクで、ソフィストケートされた大橋のサウンドにピッタリ合っている。しかも『MAGIC』はウインター＆クリスマス・アルバムとあって、まさにベ ストマッチのライブとなった。

　ステージにはいつものピアノ、ドラム、ベース、ギターの他に、キーボード、サックス、バイオリン、チェロがセッティングされていて、大橋のライブ史上、最も多い数のミュージシャンたちがスタンバイしている。そしてライブはオープニングから、フルメンバーでの演奏になった。

　１ 曲目は『MAGIC』から、ユーミンのカバー「恋人はサンタクロース」。先のインタビューで、大橋が「いちばん好きな日本のクリスマスソング」と語っていた名曲だ。アンサンブルを重視したシャープなアレンジに乗って、大橋の柔らかな声が会場の隅々まで届く。アルバムでもブラスのアレンジを担当したEGO-WRAPPIN’のサックス武嶋聡がバック・メンバーとして参加しているので、サウンドのクオリティは抜群だ。自分の思い描いた音に包まれて、大橋自身が “音楽の歓び”に浸っているのがわかる。最高の滑り出しとなった。

　メンバーが手に手にパーカッションを持ったザ・クランベリーズのカバー「Dreams」 も、うっとりするほどいい。もちろんカバーだけでなく、オリジナルもカッコいい。アルバム・タイトル曲「MAGIC」では、スリリングな大橋のピアノ・ソロが聴けた。

　バンドの要は、ドラムの神谷洵平だ。ニュアンスに富んだプレイは、グルーヴマスターとして唯一無二。またこの日のキーボードは、神谷と“赤い靴”でコンビを組んでいる東川亜希子で、大橋の繊細かつダイナミックな世界観をよくサポートする。

　スタジオワークと同じく、大橋のライブでは生楽器の音が最大限に大切にされる。楽器だけではなく、曲と曲の間で大橋が鳴らす“バードコール”も名物のひとつ。歌が終わってひと息ついていると、どこからともなく小鳥の声が聴こえてきてさらにホッとする。それがバードコールだったりするのだ。どこまでも耳を喜ばせることを第一に考える大橋らしいユーモアに、自分の心がゆるんでいくのがわかる。

　また照明も美しく、途中、レナード・コーエンの「Hallelujah」やジョニ・ミッチェルの「River」などの大ネタ・カバーでは、夕暮れの日差しが差し込む大きな教会をイメージさせる光の中で聴く大橋のボーカルとピアノが素晴らしかった。ラストは、今年を代表するクリスマスソングとなった「スノードロップ」で、会場は大盛り上がり。

　「リラックスし過ぎ！」と突っ込みを入れたくなるほどユルユルのトークも含めて、開放的なライブはアンコールへ。最後の最後はオリジナルの「窓」だった。この曲は昨年のライブでは作詞した矢野 顕子とデュエットしたが、今回は大橋のピアノとバイオリン、チェロの３人で演奏。矢野に強くインスピレーションを受けたピアノを弾きながら歌う大橋は、この日でいちばん歌詞を伝えてくれた。オーディエンスの心に♪この窓に　明日が入ってくる♪というフレーズを刻んでライブは終わった。

　センスのかたまりのようなミュージシャンは、得てしてスタ ジオが得意で、ライブが苦手だ。しかし大橋は、その例に漏れる。昨年の夏フェスで観た大橋も凄かったが、ライブ・アーティストとして大きく成長した2013年を締めくくるにふさわしい、持ち味を充分に発揮したパフォーマンスだった。

【取材・文：平山雄一】