ニューアルバム『plugged』で、大橋トリオは本領を発揮。デビュー以来、抜群のセンスに裏打ちされた多彩なコード展開を駆使して、さまざまな生楽器で独自のポップワールドを構築してみせた大橋は、新作では“plugged”＝エレキ楽器をメインにしてユニークな“ロック”を聴かせてくれる。轟音や初期衝動というお決まりのロックの公式から見事に抜け出した『plugged』は、“目からウロコ”の衝撃作だった。

　その“plugged”ツアーの東京公演は、気持ちのいい夕風の吹く日比谷野音。大橋のセンスを愛するファンが詰めかけて、満員だ。そして大橋はそんなファンの期待に応えて、彼にしかできないライブをやってのけた。

　まずノスタルジーとモード系を合わせたファッションで大橋と4人のメンバーが登場すると、大きな歓声が沸く。ドレスコードはハットとコートで、５人それぞれ色とりどりの組み合わせが楽しい。そんなハイセンスは、もちろんサウンドにも活かされていて、オープニングはいきなりアルバム『plugged』の１曲目の「マチルダ」だ。大橋の弾くイントロのギター・リフは、リズミックで軽く聴こえるが、実はロックのカッコよさが凝縮されている。CDでその魅力は認識していたが、野外で聴くこのリフの印象は想像を超えてスリリングで、のっけから大橋の「こんなカッコよさもあるんだぜ！」という挑発的なパフォーマンスにノックアウトされてしまった。

　一方で、『plugged』以前に発表したエレガントなイメージの曲をロックとしてリアレンジして聴かせたり、同じ歌詞に別のメロディを付けた「Gravity#3」と「Gravity」と続けて演奏したり、奔放な音楽的アイデアをライブで放出する。しかしそれは小難しい“実験”とはならず、しっかりオーディエンスを楽しませるレベルに押し上げられていて、改めて大橋トリオという才能の偉大さと音楽愛が伝わってきて感動したのだった。

　終盤はそんなセンスと遊び心を合体させた、大橋ならではのエンターテインメントが爆発する。ギターからピアノに大橋が持ち替えたりしながら、即興に近い演奏を繰り広げる。それは伊澤一葉をはじめ卓越したテクニックを持つメンバーだから可能なセッションではあるが、それ以上に大橋の“音楽を楽しむ姿勢”が成せるワザなのだ。こうした“ニュアンス至上主義”は、アリーナやスタジアムには向かないが、逆に言えば日比谷野音という野外で3000人近いオーディエンスに人間味あふれる音楽を届ける大橋の度量には驚かされた。

　アンコールで大橋は「15年前、日比谷公園に遊びに来たら、ここでシャムシェイドがライブをやっていて、すごいなと思った。ちょうどその頃の僕は、音楽の裏方的人間になれればいいなと思っていたから、まさか自分がここに立つなんて」と思いを語る。

　“決め”の多い演出され大規模ライブショーも楽しいが、こうした自由な音楽を味わうライブがもっとあってもいい。アーティストとファンが、音楽そのものを分かち合うライブの醍醐味を堪能した一夜だった。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：山川 哲矢】