バンドの自我が意思となり、それを具現化させた、ねごと、東名阪ワンマンツアーのファイナルをレポ!
ねごと | 2013.05.24
息をのむ観客。静まり返る会場。暗闇に沈むステージ。その上空からは、2本のスポットライトが伸びていた。光の先には、ハンドマイクで歌う蒼山幸子(Vo&Key)と、澤村小夜子(Dr&Cho)。小夜子は、幸子のキーボードの前で鍵盤に指を滑らせている。
ピアノの弾き語り。幸子の声が、真っ暗な会場に、しんしんと降り積もっていく。
「ふわりのこと」
この日のライヴは、観客(私も含む)の予想を裏切り、バラード曲で幕を上げた。
2月中旬、彼女たちの地元である千葉からスタートした全国ツアー。本ツアーは、全国で計26公演を行う、ねごと史上最長&最大規模のツアーであり、そのうちの東名阪ライヴはワンマンであった。このワンマンのファイナル公演、全国ツアー25本目のライブが、5月11日、Zepp Tokyoで開催された。
(ちなみに、全行程のファイナルは、このZepp Tokyoの後に予定されている沖縄公演である)
「ふわりのこと」を歌い終わると、完全に裏をかかれた観客から、大きな拍手が起こった。その拍手に重なるように、SEが流れ出す。メンバーの沙田瑞紀(G.&Cho.)が作ったという打ち込みトラック。エレクトロニカでスペーシーで、ちょっとダンサブルなアプローチは、ねごとの“自由度”を象徴しているかのよう。大音量が会場全体の熱気を、一気に上げていく。一旦、ステージを後にした幸子と小夜子も含め、メンバーが順番に姿を現す。大歓声。スタンバイする4人。小夜子がリズムを刻み始める。瑞紀のギターが鳴り響く。藤咲佑(B&Cho)がしっかり前を向き、観客を見つめる。暗闇の中、ねごとが発動する。イントロの中、軽く揺れるようにリズムをとっていた幸子が、スッと前を向き叫んだ。
「Zepp Tokyo―ッ!!!!!」
ロックの荒々しさが特徴のアップチューン。バンドサウンドが、転がるようにハイスピードで駆け出していく。続く「Re:myend!」では、サビで瑞紀と佑がステージ前に出て、拳を振り上げて観客を煽った。ビートも前のめりなら、テンションも前のめり。幸子も時折跳ねるようにリズムを刻む。小夜子は歌いながらビートをキープする。そこには、スタートダッシュからギアをトップに入れ、観客と一緒に、このライヴを突っ走るぞという、彼女達の意志が見えた。
リーダーの佑が「ようこそ」と挨拶。観客とコールアンドレスポンスを繰り返した後「この声が、本当に聞きたかったです。今日は本当に来てくれてありがとう」と素直に感謝の気持ちを述べた。さらに佑は、2月にリリースされたニューアルバム『5』のこと、本ツアーのことを振り返り、この日のライヴのタイトル“お口ポカーン!! 東名阪ワンマンツアー ?spark of FLOWER?”に触れ、最後はこう締めくくった。
「ここにいるみんなで大きな大きな花を咲かせていこうと思うので、最後までよろしく!」
続くブロックでは「drop」など、ミディアム・チューンを中心に披露。特に、前述したニューアルバム『5』の中でも、アップチューンとはまた別の視点で肝曲となった「flower」が秀逸だった。コーラス&サイケデリックなアプローチと、セオリー無しの楽曲展開は、今後のねごとのサウンドの広がりを想像させるエネルギーに満ちていた。アルバムを聴いただけでは気がつかなかった楽曲の“厚み”に、本ツアーでの彼女達の著しい成長を感じた。
続いて、メンバー1人ずつが順番にマイクをとった。小夜子が「今年の春、ねごとは全員(大学を)卒業して、ミュージック社会人になりました。音楽に就職しました!」と笑いと拍手喝采をゲットすれば、幸子は、客席を見ながら「すごい景色だねー」と言った後、打ち上げで飲むのを解禁したと告白。客席から“どこのお酒が美味しかった?”と聞かれて、真剣に考え、答える一幕も。小夜子に“ねごとのスカイツリー”と紹介された瑞紀は、そのネタから広げようとするも(?)、脱線。話そうとするも、結局、ぐだぐだになったが、次の曲へ話をつないだ。メンバー達の力を借りながら、瑞紀が、ニコニコゆっくり、次の曲のコールアンドレスポンスをレクチャーしていく。この姿に“これ、1年前だったら、幸子がやってたんだろうなぁ。瑞紀なんて、こういうの、4人の中でいちばん苦手かもしれないのになぁ”と、彼女達の意思の強さを改めて確認した次第。
観客を巻き込んで「100」へ。2012年11月に発売されたシングルのカップリング曲だ。タイトルの“100”を漢字にすると“百”。モモとも読めるね……と、♪モモモモモモモ……♪ というコーラスが決まったというこの曲。取材当時「お客さんと一緒に ♪モモモモモモ……♪ って歌えたらいいなって。すごい光景だと思うので(笑)」と言っていた彼女達。この日、曲中で客席とやり取りしながら、全国ツアー各地でもお馴染みのご当地ネタで歌詞を変えるというアイデアも入れ込み、自分達と観客で“すごい光景”を作り出した。有言実行が、ここ1年間でのねごとの成長であり、ひとつの大きな魅力になってきたが、ここでも見事に成長の姿を見せたあたり、天晴れであった。
ライヴは中盤から終盤へ向かう。
これまでと明らかにバンドの音圧の違いを見せつけた「街」、ブルーのレーザーが闇を切り裂いた「トレモロ」、そして「week...end」へ。「wek...end」では、少ない光量の照明ライトのグリーンとLEDのグリーンを使い“グリーンの質の違い”で、楽曲を彩るという印象的なライティングも目を惹いた。「そして、夜明け」に続いて披露された「新曲」は“まだまだ、もっともっと!”という、ねごとの“熱さ”が感じられるドライヴ・チューン。ダンサブルなサビも派手なアップ・ナンバーだが、メロディには独特の切なさもあり“新しさ”が感じられた。しかしながら、特筆すべきは、幸子のボーカル。少し低音になるロングトーンなど、大地に踏ん張って振り絞ったような、骨太さを感じる声だったし、何よりも、初めて聴く曲なのに、しっかり歌詞が伝わってきたのが、素晴らしいと思った。幸子がマイクをとる。
「次の曲は、今、いちばん私たちが皆さんに届けたい曲です」
「たしかなうた」
力強いメロディーラインが、堂々とZepp Tokyoを縦断していく。この上ない丁寧な演奏とサウンドが、しっかりと会場を満たしていった。
この日、最後のMC。小夜子が、会場を見ながら「こういうのって、自分達だけではできないよって改めて思うよね、今、泣きそうだけど」とひとこと。幸子、瑞紀、佑の3人が、うんうんと頷いている。佑が言葉を受け取る。曰く「大きな花を咲かせようと思ってたけど、じつは不安だった、でも1曲目でみんなの顔をみて不安がなくなった、ありがとうございます。でもまだまだ先があると思うんだよね……」と言うと、声が途切れ、少し俯き加減に。会場から“頑張って!”“佑ちゃん!”の声援が飛ぶ。後方からは、女の子の声も聞こえた。佑が前を向き、続ける。
「このツアーで壁が壊れた。みんなとの距離も近くなった。だからこれからも壁をどんどん壊して頑張って行こうと思います。次の曲は、みんなとの壁を壊したいと思って作った曲。アンコール無いからね! みんな、最後までよろしく!」
ねごとの想いが、目の前で乱反射する。あぁ、眩しい。眩しすぎるぞ、ねごと。「greatwall」。眩さを感じたのは、大胆なライティングのせいだけではないだろう。イントロのピアノに合わせ、客席から“Oi! Oi!”のコールが起こった「季節」。幸子がリズムに合わせ、弾かれたようにステップを踏む。この曲が、最初にライヴで披露された時には、無かった光景だ。この光景こそ「季節」というメランコリックなスピードチューンが、ねごとの成長とともに作り出した“ねごと百景のひとつ”と言えようか。この“ねごと百景”は、この曲でも、今後もっと変わっていくだろうし、別の曲でも、これからどんどん作り出されていくに違いない。PAのサラウンド効果で、サウンドがぐるぐる回り、よりダイナミックになった「nameless」、佑のベースのワンフレーズで、最初から大歓声となった「ループ」と、畳み掛けた後、放たれたのは、この曲だった。
「カロン」。ねごとのファーストシングル。彼女達の知名度を上げ、ねごとを一躍“注目アーティスト”に押し上げた1曲である。大サビの ♪太陽が…… ♪ というフレーズに合わせ、イエローのライトが会場中を照らし出す。そのタイミングで、それぞれ、観客の顔を見つめる4人。鍵盤を弾きながら、左肩越しに少し振り返り、客席前方の様子を見る幸子の仕草が、とても印象的だった。幸子が言う。
「去年、この曲をSHIBUYA-AXでやった時は、『たとえ半歩でも前に進みたい』、そんな願いのような曲でした。でも1年経った今、私たちを1歩も2歩も3歩も進めてくれた、強い光の曲になりました!」
この言葉を受け、最後の曲は「sharp♯」。間奏。ギターを弾く瑞紀以外の3人が、真っ直ぐ立ち、右手で上空を指差した。そこには、間違いなく“ねごとの新しい姿”があったと思う。
このレポート中、ちょっとしつこいくらいに“意思”という言葉を使ったが、この日のライヴは、まさに彼女たちの様々な意思が、ひとつになったライヴだったと思う。壁を壊したい。もっと観客とひとつになりたい。半歩でも前に進みたい、などなど――これらは、彼女たちが、デビュー以降、ずっと言ってきた“ねごとの曲をもっとたくさんの人に届けたい、伝えたい”という気持ちがあって芽生えた自意識、もっと言ってしまえば、バンドにとって“楽しく演奏する、楽しく音を出す”以外での初めての自我だったのだとも思う。
バンドの自我は、彼女たちの中で意思になった。そして彼女たちは、本ツアーで、その意思をきちんと具現化してみせたのだ。
MC然り、客を煽るアクション然り、コールアンドレスポンス然り。そこには自分達から観客に歩み寄っている彼女たちの意思が見えた。
しかしながら、この意志が変えたのは、前述した要素だけではない。サウンドにもライヴ自体にも、しっかりとその変化が表れてきたように思う。ねごとのライヴは、彼女達以外の要素、つまりセットや照明である程度ショウアップされた異空間を演出するのが常だが、この日のライヴは、異空間のレベルが違っていたように思う。その理由は何か。照明も演出も前例にないほど素晴らしかったが、その空間から飛び出すようなサウンドのスケール感が、ところどころに感じられたのだ。特に、リズム隊のスキルが格段に上がり、さらに自由度を増した瑞紀のギターの広がりは、今後の“異空間の広がり”において、大事な要素になっていくだろう。瑞紀のギターが毎度、ちょっと変わったフレーズ&アプローチであることも、彼女達のサウンドの個性につながっていくはずだ。
前を向き続けること、進み続けること。その大切さを、ねごとは、自分達の進化で証明し続けている。
もちろん、これからも。
【取材・文 伊藤亜希】
【撮影 H.and.A】
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リリース情報
セットリスト
お口ポカーン!! 東名阪ワンマンツアー
〜spark of FLOWER〜
2013.5.11@Zepp Tokyo
- 0. ふわりのこと
- 1. 潜在証明
- 2. Re:myend!
- 3. メルシールー
- 4. drop
- 5. フラワー
- 6. 100
- 7. メイドミー…
- 8. ワンダーワールド
- 9. 街
- 10. トレモロ
- 11. week...end
- 12. そして、夜明け
- 13. 新曲
- 14. たしかなうた
- 15. greatwall
- 16. 季節
- 17. nameless
- 18. ループ
- 19. カロン
- 20. sharp ♯
お知らせ
SAKAE SP-RING 2013
2013/06/08(土)NAGOYA CLUB QUATTRO
ネコフェス2013
2013/06/30(日)神戸地区ライブハウス7会場
JOIN ALIVE
2013/07/20(土)北海道いわみざわ公園
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013
2013/08/02(金)国営ひたち海浜公園
GIRLS’ FACTORY 13
2013/08/07(水)東京・国立代々木競技場第一体育館
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。