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秦 基博『“Signed POP”TOUR 2013』の最終盤。満場の大宮ソニックシティを魅了したライヴをレポ!

秦 基博 | 2013.06.19

 秦 基博の“Signed POP”TOUR 2013の最終盤のライブを、大宮ソニックシティで観た。そして思ったのは、このツアーは秦 基博にとって大きなターニングポイントになるだろうということだった。

 デビュー以来、高いクオリティの楽曲とボーカリゼーションを保っている秦は、ライブ・アーティストとしても成長を続けてきた。バンドを従えた通常のツアーの他に、弾き語りを中心としたアコースティック・ツアー“GREEN MIND”を小さなライブハウスから大規模な野外まで展開したりして、ライブの可能性を精力的に追求。音楽の表現力を広げてきた。

 今回のツアーのテーマはもちろん最新アルバム『Signed POP』なのだが、音楽的にはバックバンドのリズムセクションにドラム河村“カースケ”智康を起用したことが秦の変化の大きな要因となっている。そのことはツアー前半のNHKホールのレポートでも述べたが、終盤の大宮ではそれがさらに顕著な形で表われていた。

 場内が暗くなると、BGMで流れていたリズムの音が大きくなり、オーディエンスがそれに合わせてハンドクラップする中を4人のバックメンバーと秦が登場。そのまま、アルバム『Signed POP』の2曲目に収録されている「グッバイ・アイザック」に入っていく。1拍1拍をギリギリいっぱいに使う河村のドラムは、リズムに粘りを与え、楽曲のスケールを極限まで膨らませる。その しっかりとしたリズムに乗って、秦が悠然と歌い出す。これまでも秦のライブでの歌のリズムは素晴らしかったのだが、レベル違いの正確さと深さがそこにあった。

 特にその変化を強く感じたのは、3曲目に歌った秦のセカン ド・シングル「鱗(うろこ)」 だった。ピアノのイントロが始まると、大きな拍手が起こる。それを受けて歌い始めた秦は、パワフルさと優しさを兼ね備え、最前列であろうが最後列にいようが、会場のどこにいてもストレスなくボーカルが楽しめるパフォーマンスを披露する。まるで♪身にまとったものは捨てて  泳いでいけ♪という歌詞のとおり、メロディと言葉のひとつひとつをクリーンに届けていた。そのリズムのスケールアップに華を添えるように、バンマス久保田光太郎のギター・ソロが光る。この歌はNHKホールでもよかったが、この日はそれをはるかに上回り、秦の歌が演奏の中心になって生まれた“音楽の魔法”がそこにあった。

「改めまして、秦 基博です。2年ぶりの大宮です。楽しんでいってください」と短く挨拶。6曲目「アイ」は、バンドが去って弾き語りになる。このコーナーで光ったのは「恋の奴隷」だった。恋愛の深層に降りて行くこの歌を、ピアノだけで歌う。ややもすればベタベタに濡れてしまいそうな歌詞を、秦が乾いたタッチで表現すると、切なさが何倍にもなって伝わってきた。これもリズムの深まりが生んだ産物だと感じた。

 全体に、この日の秦の声はやや疲れがみえて絶好調というわけではなかった。だが秦はリズムに集中することで、音程の不安定さを見事にカバーしていた。ツアー全部を最高の状態で過ごすのは、どんなアーティストでも不可能なことだ。秦は自分の状態と正面から向き合って、それを超えようとしていた。もしかするとこの日、「恋の奴隷」が 素晴らしかったのは、そんなこともあったのかもしれない。

 本編の終わりに秦が語り出す。
「自分を生々しく表現すると、それは秦 基博を通して見る“社会”になると思う。『Signed POP』を作りながら、そんな作品がみんなの心と響き合ってくれないかなと思ってました。ツアーにたくさんの人が来てくれて、その前で歌うことができてよかったです。そしてその人たちの心に、自分のサインを残せたらいいなと思ってます。また、みなさんからたくさんのサインをもらえた。本当にありがとうございました」。最後は、『Signed POP』のラストに収められている「綴る」を、 ゆったりと歌った。

 アンコールは、その『Signed POP』の1曲目に入っている「Hello to you」をギターの弾き語りで。アルバム全体の導入として書かれたこの曲の♪会える日まで もっと きっと 僕もがんばるから♪というフレーズが刺さる。
 続いてはバンドが入って、最新シングル「言ノ葉」。皆川真人のステディなピアノの刻みと、おおらかな鹿島達也のベース、それに久保田の絶妙なコーラスが絡み、楽曲と演奏とボーカルのスケール感が一致して、輝くような秦のラブサウンドが堪能できた。

 この日はライブ後にラジオ番組「RADIPEDIA」の生放送が控えていたので、「今日、ここに来たみなさんはノルマとして絶対、聴いてよ!」と笑顔で締めた。

 「自分を通して社会を生々しく歌う」と自分のスタンスを決め、オーディエンスのひとりひとりにイーブンに届くリズムを手に入れた秦 基博は、ますます重要なシンガーソングライターになっていくだろう。そのことをはっきり確認したツアー最終盤だった。

【取材・文 平山雄一】
【撮影 岩佐篤樹】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 秦基博

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リリース情報

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2013年05月29日

アリオラジャパン

ディスク:1
1. 言ノ葉
2. Rain
3. Girl (Tomita Lab. Remix)
4. 言ノ葉 (Backing Track)
5. Rain (Long Ver.)

ディスク:2
1. 「GREEN MIND 2012」(茨城公演)LIVE

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セットリスト

“Signed POP”TOUR 2013
2013.6.5@大宮ソニックシティ

  1. グッバイ・アイザック
  2. トラノコ
  3. 鱗(うろこ)
  4. May
  5. 現実は小説より奇なり
  6. アイ
  7. 虹が消えた日
  8. 恋の奴隷
  9. 花咲きポプラ
  10. エンドロール
  11. ひとなつの経験
  12. 自画像
  13. Girl
  14. キミ、メグル、ボク
  15. FaFaFa
  16. 初恋
  17. Dear Mr.Tomorrow
  18. 綴る
Encore
  1. Hello to you
  2. 言ノ葉
  3. 月に向かって打て
  4. 水無月

お知らせ

■ライブ情報

Sukimaswitch in Augusta Camp 2013 〜Sukimaswitch 10th Anniversary〜
2013/07/27(土)横浜赤レンガパーク 野外特設ステージ

待ち人のフェイバリット vol.2 supported by 第7回境港サウンドアミューズメント
2013/07/31(水)鳥取県・境港シンフォンニーガーデン(境港市文化ホール)

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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