レビュー

秦 基博 | 2016.02.17

連載 第109週
秦 基博「スミレ」


ポップでミステリアスなドラマの主題歌を書けるのは、秦 基博しかいない

 イントロのスピーディーなドラムのフィルに、「おっ?!」と耳が引きつけられる。秦 基博のナンバーの中では、かなりテンポが速いことが一聴して分かる。そしてメロディが聴こえてくると、2度目の「おっ?!」。秦のナンバーの中でも、指折りのポップ。しかも♪花盛り 君の香り♪というリリックのストレートさは、飛び抜けている。

 初の連続ドラマ主題歌として書き下ろした「スミレ」は、嬉しいサプライズの連続だ。ドラマ「スミカスミレ 45歳若返った女」は、そのタイトルどおり65歳の女性が、中身はそのままで容姿が20歳に若返ってしまうという設定だ。恋愛経験もなく地道な人生を送ってきたヒロインが、ときめく人生を生き直す。

 秦はそんなシチュエーションをポジティヴに捉えて「スミレ」を書いた。だからメロディもリリックもポジティヴに響く。しかし、そこは秦 基博の手になる歌なので、あちこちにフックが潜んでいる。♪苦しくて 触れたくて バカみたい♪と手放しで恋する気持ちを歌ったかと思うと、♪君が消えないように♪と謎の呪文を唱える。「バカみたい」の過剰さが、「消えないように」という不安をリアルに伝える。メロディも、このテンポでこのコード進行ならこうなるだろうという“黄金パターン”を、サビで少しだけ外す。ドラマのキーポイントを的確に捕まえながら、自分のシンガーとしての魅力と、ソングライターとしての特徴を打ち出しているのは、秦がますますアーティストとしてのテンションを高めている証拠だ。このポップでミステリアスなドラマの主題歌を書けるのは、秦しかいないかもしれない。アレンジもプロデュースもすべて秦自身で、申しぶんのない仕上がりだ。

 そして僕にとってこのシングルのもう一つの楽しみは「Q & A」だった。昨年の9月に世界遺産“縄文あおもり三内丸山遺跡”で行なわれたライブからのテイクで、ドラム、ベース、ギター、キーボードと4人のストリングスという編成で演奏されている。「Q & A」は映画『天空の蜂』の主題歌 で、人生の裏と表をスリリングに描くロックテイストの曲。ある意味、「スミレ」とは対極にある、エッジーでシリアスな歌だ。この野外ライブバージョンは、「Q & A」のスタジオテイクとは異なるスケールの大きなニュアンスが楽しめた。

 この2曲の対比は想像以上に素晴らしく、「スミレ」は今の秦の力と輝きの両方を堪能できるシングルだと言いたい。

【文:平山雄一】

tag一覧 シングル 男性ボーカル 秦 基博

リリース情報

スミレ(初回生産限定盤)[CD+DVD]

スミレ(初回生産限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2016年02月24日

価格: ¥ 1,700(本体)+税

レーベル: オーガスタレコード/アリオラジャパン

収録曲

[CD]
1. スミレ
2. 野ばら
-2015.9.5 世界遺産劇場
~縄文あおもり三内丸山遺跡~ Special Live-
3. 季節が笑う(Live at 三内丸山遺跡)
4. ダイアローグ・モノローグ(Live at 三内丸山遺跡)
5. トレモロ降る夜(Live at 三内丸山遺跡)
6. Q & A(Live at 三内丸山遺跡)
7. スミレ(backing track)

[DVD]
「Sally -みんなでつくるMUSIC VIDEO-」

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