11月27日（水）に約３年ぶりのニューアルバム『O.T.Come Home』のリリースを控えた奥田民生が、10月14日（月）、新木場STUDIO COASTで全国ツアー「奥田民生 2013ツアー“SPICE BOYS”」をスタートさせた。

　超満員のオーディエンスの前に（いつものように）リラックスした雰囲気で登場した奥田とバンドメンバー（斎藤有太[Key]、小原礼[B]、湊雅史／[Dr]）によるMTR＆Yバンド）はまず、新作アルバムに収録されるセルフ・カバー曲「マイカントリーロード」（PUFFYへの提供曲）を放つ。ブルース~カントリーの匂いをたっぷりと吸収したバンドサウンド、濃密なエモーションを含んだボーカルがドカンと響き渡り、一気に引寄せられてしまう。いきなりロックの本質を掴み取ってしまうようなこの感覚、やっぱりすげえな……と感じ入っていると、最初のMCで民生はこんなことを言い始める。

「えー、今日からツアーが始まったんですけど、ちょっと不思議というか、変わってるんですよ。三郷（三郷市文化会館　大ホール公演）からなんです、本当の“SPICE BOYS”は。ご覧のように、セットとか無いでしょ？　リハの途中に本番がある感じなんで、中途半端なんですよ。ホントはダンサーとかが踊り狂うんですけど、今日は誰も来ないし（笑）。お金はお返ししませんけど、そのぶん、いつもよりちょっと頑張ります」

　さらにメンバーを紹介したあと、「前回とメンバーをごっそり変えてきました。新鮮でしょ」みたいな冗談を言いつつ、観客を脱力させていく民生。いつも以上にゆるすぎるトークを挟みつつも、演奏が始まった瞬間、骨太にしてしなやかなバンド・グルーヴが巻き起こる。この対比こそが、民生のライブの真骨頂なのだ。

　強靭なビートと憂いを帯びたメロデイをじっくりと聴かせつつ、最後は斎藤有太の爆発的なキーボード・ソロへと突き進んでいく「荒野を行く」。ギターをフライングVに持ち替えて披露された、軽快にしてポップなロックンロール・ナンバー「チューイチューイトレイン」（この曲も『O.T.Come Home』に収録される新曲）、抜けのいいサビのメロデイが歌われた瞬間、会場中から大合唱が生まれた最新シングル「風は西から」。ライブが進むにつれて、アンサンブルがガッチリと噛み合い、猛烈なダイナミズムと芳醇な響きをしっかり生み出していくMTR＆Yバンド。オーセンティックなロックの系譜を受け継ぎつつ、世界のどこにもない、唯一無二のロック・ミュージックを体現し続ける。本当に貴重な存在だと改めて思う。

　ライブ中盤では「iPadも足で操作できるようになった」という話から、楽器の話題へ。「ここまで便利になったけど、古いのは古いからね。ギター、アンプ、ハモンド・オルガン…。（斎藤のハモンド・オルガンを指さして）それがいちばん古いんじゃない？　シンセでいいじゃん」。最後はまたしてもゆるいジョークになってしまったが、言うまでもなく民生の“音”へのこだわりはハンパない。ちなみにこの日彼が弾いていたレスポールは、これまで使っていたレスポールのレプリカ（なんと裏側の傷まで正確に再現されているという）で、この音も抜群。ひとつひとつの音質がとにかく素晴らしいので、大音量で聴いてもまったく疲れることがなく、ひたすら気持ちいいのだ。人によって音の好みは違うことはもちろんわかっているが、民生のライブの音の良さは格別。ぜひ生で味わってほしいと心から思う。

　初のクライマックスシリーズ進出を決めた広島カープへの愛に満ちたトークを挟みつつ、終盤は「御免ライダー」「拳を天につき上げろ」などのアッパーチューンを連発し、圧倒的なカタルシスを演出。アンコールでも「え、この曲をこのアレンジでやるの？　マジで?!」という意外過ぎる（でも、めちゃくちゃ質が高い）パフォーマンスを披露、会場を沸かせた奥田民生。関東近郊の次回の公演は10月28日（月）、10月29日（火）の神奈川県民ホール。さらに新潟、大阪、広島、札幌、福岡などを回り、11月27日（水）、11月28日（木）の中野サンプラザまで続いていく。ツアーが進むにつれて、バンドの完成度もさらに上がっていくはず。「何度でも見たい！」という気持ちがムンムン高まる、大充実の初日だった。

【取材・文：森朋之】
【撮影：山本倫子】