パスピエ、初のワンマンツアーの東京公演をレポート!
パスピエ | 2013.11.19
ツアー・タイトル“印象・日の出”は、リーダー&キーボードの成田ハネダが好きな19世紀の芸術ムーブメント“印象派”の画家クロード・モネの絵画のタイトルそのままだ。朝の水面に映る太陽を描いた名画のイメージが、果たしてライブでどう展開されるのか。期待して開演を待った。すると、ボーカル大胡田なつきが「みなさん、こんばんは、パスピエです」と開演前のアナウンスを担当。会場を埋めた男4:女6の観客は、それだけで一気にアガる。すかさずロマンティックなシンセのSEが流れて、メンバーが登場したのだった。
1曲目「トロイメライ」の最初の音が凄かった。全員が同じタイミングで音を出す。その音圧は、脳を快く直撃する。一瞬にしてバンドの実力がわかった。僕はパスピエをCDでは聴いていたが、ライブは初めて。リズムが非常にタイトで、シーンでもトップクラスの演奏力を持っていることにまず驚かされた。
大胡田が歌い始める。ふわっとした独特の歌声はCDと同じ。が、彼女のふわふわしたステージアクションが、CDでは分からなかったインスピレーションを添えてくれる。超タイトな演奏に、ふんわりと したボーカルが乗る。ミスマッチぎりぎりの向こう側に出現する“ダンサブルな歌モノ”がパスピエの魅力だ。
「こんばんは、パスピエです。みんな、来てくれてありがと。初めてのワンマンツアーで、名古屋も大阪も特別な日になりました。でも現在進行中のライブが最高です。最高のライブにしましょう!」と大胡田。だが、若干、間が悪く、会場から反応がない。と、「イェーイとか言って」と大胡田がお願いしたから、会場は爆笑しながら「イェー イ!」と返す。初めてのワンマンらしい光景だった。またこの“ミスマッチ感”は、あらゆる場面でパスピエが発揮する楽しさの源なのだと実感した。
演奏はシンセのループ・フレーズが多い。だが、成田をよく見ていると、すべてが“手弾き”だ。コンピュータの同期を使うバンドが多い中、逆に手弾きは自分たちの個性を出すひとつの方法なのかもしれない。その代り、成田にかかる負担は並大抵ではない。ちなみに終演後、成田と握手した際に、彼の手の小ささにびっくりした。この手であれだけの音符を弾いていたのかと思うと、彼のオリジナリティへの情熱の高さを感じた。ピアノも上手い成田だが、クラシックからオリジナ ル・ロックへの道を選択した時点で考えた方法論なのだろう。パスピエの懐の深いキーボード・ロックは、そこから生まれている。
一方、リズム・セクションは、やおたくやの4つ打ちのキックドラムに、ベースの露崎義邦がピタリと合わせる。ビートの中心には、成田の正確なキーボード・プレイがあり、三澤勝洸はギターをエモーショナルに掻き鳴らして強烈な色彩を与える。4人編成の楽器チームは、オーソドックスなロック、プログレロック、ポストロック、フュー ジョン、ブラック・ミュージックといった多彩な音楽性を孕んでいる。それだけに、ライブでアンサンブルを組むのには、大変な努力が必要だ。最も安定したテクニックを持つ成田にしても、ライブでは別のエネルギーを要求される。このライブを通して感じたのは、バンドが急速に“フィジカル”を鍛えられている時期なのだなということだった。なので、このワンマン・ツアーはベストのタイミングで敢行されたと言えるだろう。
たとえばこの日の3曲目の「フィーバー」は、2回演奏された。13曲目の「ワールドエンド」が終わった後、成田が叫ぶ。「ひとつ、提案があるんだけど。“フィーバー”の時、ベースの音がちゃんと出なかった。あのベースラインを聴いて欲しいから、もう1回やりたい! 照明さん、オーケー? お前らフィーバーできんのか? オレら、このまま終わらねーからな」。そして演奏した2回目の「フィーバー」は、1回目より断然凄かった。パスピエはライブしながら進化していくバンドなのだ。
一方で、初のワンマンだけにペース配分がまだ調整できていずに、少しバテるシーンがあったのも、ニューカマーらしくて好感が持てた。
言葉とメロディが合わさったときに生まれる楽しさ満載の 「最終電車」や、アンコールで大胡田のキュートな歌詞世界が爆発した「脳内戦争」など、未知の可能性があちらこちらに感じられるライブだった。そして、そんなパスピエをもう一度見たいと強く思った。この“印象・日の出”の後、パスピエは、太陽を浴びて強烈に輝きを放つ存在になっていく。来年が楽しみになってきた。
【取材・文:平山雄一】
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リリース情報
お知らせ
パスピエ TOUR 2013 “印象・日の出” 外伝
2013/11/27(水)新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2013/11/28(木)仙台PARK SQUARE
2013/11/30(土)札幌DUCE
2013/12/10(火)広島Cave-Be
2013/12/11(水)高松DIME
2013/12/14(土)神戸VARIT.
2013/12/15(日)福岡Queblick
2013/12/21(土)東京赤坂BLITZ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。