布袋寅泰、極上のプレイと音楽愛に満ちたブルーノート東京公演
布袋寅泰 | 2014.09.11
ブルーノートのステージに、 スーツ姿の布袋と、ドラムのデヴィッド・スロックモートン、ベースのトニー・グレイが静かに現われた。ステージの背後はサテンのカーテンで覆われている。時間は夜の9時半過ぎ。どこまでも“ジャズの殿堂・ブルーノート”仕様のライブだ。
真っ黒なセミアコ・ギターを抱えた布袋が、ワウワウを噛ませたファンキーなコード・カッティングを鳴らし始める。16小節が過ぎたところで、いきなりギター・ソロが始まった。90年代にクラブ・シーンでジャズが復権を果たした“ジャズ・グルーヴ”のノリだ。ギターの音色も、いつものクリアトーンではなく、まろやかなジャズギターのサウンドだ。
客席もいつもの布袋のライブとは違って、フォーマルなファッションのカップルが埋めている。やや緊張気味に演奏のスタートを待っていたオーディエンスは、“今日の布袋のモード”を一瞬にして理解する。ドラムのソロになると、いいタイミングで「イェー!」と歓声を上げる。オーディエンスも一体となって、ジャズ仕様の布袋を歓迎している。それに応えて、布袋はドラム・ソロに続いて再びギター・ソロを取り、ドライヴ感を加速させる。
1曲目の「New Chemical」が終わると大きな拍手が起こり、ステージとフロアは完全にチューニングが合った。この「New Chemical」は、間もなくリリースされるニューアルバムからの新曲なのに、リラックスしたムードが広がったのは、さすが布袋&ファンならではのオープニングだった。
「こんばんは、ブルーノートで皆さんに会えることを楽しみにしてました。ちょっと近過ぎて照れますが、今日はガンガン飲んで食べて楽しんでいってください」と布袋。ロックのライブハウスにはない親近感と、演奏そのものを楽しむ趣向が、このひと言で伝わる。
布袋はギターを白のストラトキャスターに持ち替えて、今度はディストーションの効いたギタープレイを披露する。細かなピッキングや、指がフレットに触れる音まで聴こえる。シンコペーションにぴったりあった照明に拍手が起こった。
続く「Slow Motion」は『GUITARYHYTHMII』からの幻想的なナンバー。トニーのデリケートなベースから始まり、布袋はそれにバイオリン奏法で応じる。見れば布袋はいつの間にかジャケットを脱いで、白いドレスシャツ一枚になっている。彼はここで初めて歌い出した。マイクにかかる息や独特のビブラートが耳に届いて、ボーカルまでがブルーノート仕様に感じられる。だからよけいにアームを効果的に使ったギター・ソロが心に沁み、ライブは最初のピークを迎えた。その後で、ゆっくり熱を冷ましていくギタープレイが憎い。
「今年はいろんなステージを経験しました。3月のストーンズのライブにゲストで呼ばれたり、夏にはヨーロッパのジャズ・フェスに出たり、一人でも多くの人に聴いてもらえるという貴重な経験をしました。モントルー・ジャズ・フェスティバルは、ここ、ブルーノートのお声掛けで実現しました。ロックファンはジャズを難しいと思っている人が多いけど、ジャズ好きの人にとってジャズはロックと同じように自由なものなんだと感じたり、いろんなことを学びました。僕自身もブルーノートで素晴らしいライブを客席で見てきたので、このステージに立ちたいと思っていました。実現して嬉しいです。しかも僕のためにカクテルを用意してくれて。そのカクテルの命名を頼まれたので、迷わず“ポイズン”にしました(笑)」。客席から賛同の笑いが起こる。布袋はこのステージを心から楽しみに来ていると、改めて感じさせてくれた言葉だった。
ここから演奏は白熱していく。2011年にリー・リトナーと競演した“東京JAZZ”のセッションを思い出させるシャープなギタープレイが、次々に繰り出される。いいプレイに、客席から拍手や歓声が上がる。布袋の言う“音楽を楽しむ自由”が、形となって現われる。
一転、「去年、旅立った母に捧げます。目を閉じて聴いてください」と言って演奏した「愛の賛歌」は、ピックを使わず指で奏でるギターの音色が素晴らしく、感動を呼ぶ。ここでライブは2回目のピークを迎えたのだった。
「ありがとう。次の曲で最後です。この曲はヨーロッパのあちこちで反応があったんですが、中には『君、あのキル・ビルのカバー、よかったよ』と言う人もいて。たぶん、あれを弾かせたら、俺がいちばんだと思う(笑)」。いろいろな意味で布袋の現状と覚悟の伝わるジョークに、オーディエンスは精一杯の声援を贈る。ラストナンバーはもちろん「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」。大きなアクションを交えたギター・パフォーマンスに会場が沸きたった。
終わって布袋は「ニューアルバムにはイギ―・ポップが2曲、ボーカルで参加してくれました。今までとまったく違う布袋の音楽ができたと思います」と新作への自負をオーディエンスに直接、報告。アンコールは「Bad Feeling」 で、スタンディング・オベーションが巻き起こった。
ロンドンに渡って2年。満を持してニューアルバム『New Beginnings』が10月1日にリリースされる。その直前のブルーノート・ライブは、テクニックを駆使して、テクニックを超える気合と音楽愛に満ちた内容だった。”新しい布袋”の片鱗はあったにしても、新作はまだベールに包まれている。この秋、 果たしてどんな布袋寅泰に出会えるのか。楽しみが止まらない。
【取材・文:平山雄一】
【撮影 : 佐藤 拓央】
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リリース情報
New Beginnings
2014年10月01日
ユニバーサル ミュージック
2.Walking Through the Night(Feat. Iggy Pop)
3.Kill or Kiss
4.New Chemical
5.How the Cookie Crumbles(Feat. Iggy Pop)
6.Barrel of My Own Gun
7.Sons of Sorrow
8.Texas Groove(Feat. Vula Malinga)
9.Into the Light
10.The Living
11.Departure
12.Trick Attack -Theme of Lupin The Third-
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セットリスト
HOTEI -Premium Live-
@Blue Note Tokyo
2014.8.28@ブルーノート東京
- New Chemical
- UNTITLED
- Slow Motion
- 月光ピエロ
- UNTITLED
- Strangers 6 Theme
- Hymne a l’amour
- Mirror Ball
- Battle Without Honor Or Humanity
- Bad Feeling
お知らせ
TOMOYASU HOTEI JAPAN TOUR 2014
-Into the Light-
2014/10/17(金)埼玉・東松山市民文化センター
2014/10/18(土)群馬・群馬音楽センター
2014/10/24(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール(相模原市文化会館)
2014/10/26(日)宮城・仙台サンプラザホール
2014/10/28(火)新潟・柏崎市文化会館 アルフォーレ
2014/10/29(水)富山・新川文化ホール ミラージュホール
2014/10/31(金)神奈川・神奈川県民ホール
2014/11/02(日)静岡・静岡市民文化会館 大ホール
2014/11/03(月・祝)大阪・オリックス劇場
2014/11/08(土)大阪・SAYAKA HALL(大阪狭山市文化会館)
2014/11/09(日)広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ
2014/11/13(木)香川・サンポートホール高松
2014/11/14(金)福岡・福岡サンパレス
2014/11/16(日)宮崎・宮崎メディキット県民文化センター 演劇ホール
2014/11/23(日・祝)大阪・オリックス劇場
2014/11/24(月・休)愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
2014/11/28(金)千葉・市川市文化会館
2014/11/30(日)東京・NHKホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。