吉井和哉、“全方位型”日本武道館公演で新たな一歩を踏み出す
吉井和哉 | 2015.01.13
恒例となって久しい年末の武道館公演だが、今回は特別だった。THE YELLOW MONKEY時代から、様々な曲を歌い色々と変化してきた彼だけれど、1969年~81年のヒット曲をカヴァーした『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』を軸にした今回は、全く新たな試みである。加えて、2階席は360度オーディエンスが埋め尽くすかたちとなり、武道館ならではの光景が生まれていた。
ステージにメンバー(日下部正則:G、三浦淳悟:B、鶴谷崇:Key、吉田佳史:Dr)が現れ、アルバムでも幕開けの「SPINNING TOE HOLD」を演奏し始めると、アルバムジャケットのようにサングラスを掛け長いコートを羽織った吉井がゆったりとステージに登場した。バックビートを効かせてエロス全開で歌った美空ひばりの「真っ赤な太陽」を皮切りに、ハードなロック仕立てのピンク・レディー「ウォンテッド」に、ソウルフルな沢田研二「お前がパラダイス」「サムライ」と、曲により声や歌い回しを変えて表情豊かに歌う、吉井和哉流昭和歌謡で惹き付ける。アルバムで聴いた以上にライヴではバンドのグルーブが生々しく、「子供の頃から慣れ親しんできた昭和の歌謡曲を中心にやらせてもらおうと思っています」というMCそのままに、60~70年代の若者文化が持っていたサイケデリアに迷い込んだよう。当時の洋楽に影響を受けながら日本の度調に合わせた楽曲や編曲で独特の匂いを放つこの時代の曲を、4人編成のバンドをバックに歌うことで吉井は原点回帰させているのだ。そんな流れが見えて来た頃、「今日はカヴァー曲中心と言いましたよね。カヴァーを聴いて、オリジナルを聴いて、両方を噛み締める。両方の有難味がよくわかる」と言ったのは、まさにそういう事だろう。そうしたカヴァーの間で自身の「WEEKENDER」「VS」が強烈なアクセントとなっていた。
「12月28日は、私がシンガーになった日と言うか、THE YELLOW MONKEYが誕生した日だったんです。それで1996年から、やらない年もありましたけど、日本武道館でやらしてもらっています。日本武道館で日本の歴史を感じながら自分が聴いて来た音楽を皆さんと楽しめるのは本当に贅沢」と感慨を語り、この後にゲストが登場する事をほのめかすと場内から期待の声が起こったが、「そんなに有名な人は来ない」と苦笑。「その代わりもっと大きなプレゼントがあるので。とにかく自分が聴いて育って来た音楽を楽しんでください」と締め、ハモンドオルガンだけで沈み込むようなブルース調で歌い出した来生たかお「夢の途中」、続いてソプラノ・サックスを加えてノスタルジックに歌った荒井由実「あの日にかえりたい」は、J-POPの原点といえる曲。どちらも女性目線の曲だが吉井はサラリと自分のものにして、柔らかに歌ってみせた。
96年の初めての武道館公演でストリングスが入っていた事を語ると、ステージには総勢10人のストリングス・チームが現われ、床から天井に向け百合のように広がる白いライトの中で、吉井が幻想的に歌うあがた森魚「百合コレクション」を彩った。次いで切ないギターソロから始まった弘田三枝子「人形の家」はブルージーな歌がドラマチックに展開していく大作となり、ストリングスの美しい響きに導かれた「シュレッダー」は緊張感のあるダイナミズムに溢れた演奏が吉井の伸びやかな歌を引き立てた。更にハードなバンド・サウンドで聴かせた大瀧詠一「さらばシベリア鉄道」は吉井もギターを弾きながら歌い、終わると一転ギターを置いてファンキーな「MUSIC」へ。ロックへのオマージュ溢れるこの曲の途中で「今までやってきた曲が吉井和哉の血肉になっています。この「MUSIC」も君たちの血肉になりますように!」と叫ぶと、観客は大きな声援で応えた。「点描のしくみ」「ビルマニア」とお馴染みの曲でヒートアップしたところで、再びバンドが「SPINNING TOE HOLD」を演奏すると吉井はステージを降り、バンドも姿を消した。
アンコールはステージ後方に、レコーディングに参加した八千代少年少女合唱団と福島県伊達市立伊達東小学校の生徒さんたち39人並んでコーラスをした「襟裳岬」から。可愛らしい合唱隊に誰もが暖かい拍手を送った。子供たちを送り出したところで吉井は、「わたくし、この度コロムビア・レコードに戻って参りました」と報告。同レーベルの大先輩である笠置シズ子の「東京ブギウギ」を即興で歌って沸かせた。そして「アヴァンギャルドで行こうよ」「SUCK OF LIFE」とTHE YELLOW MONKEY時代の曲を続けたのも”ここが原点”という意思表示だったのだろう。メンバー紹介を織り込んだ「FINAL COUNTDOWN」を終えるとステージ後方の観客とタッチする大サービス。ステージにはゴスペル・スクエア・シンガーズ6人が加わり、2度ほどイントロを失敗しながら1月リリース予定の新曲「クリア」を披露。むしろ観客との一体感が生まれ、暖かい曲になった。「良いお年を!」と吉井が挨拶して一度は暗くなったステージに再度照明がつき、「またコロムビアに戻って、また違う船で船出です」と、「クリア」のカップリング曲「ボンボヤージュ」。ハモンドオルガンとコーラスでゴスペル調に彩られたバラードは、彼が踏み出した大きな一歩の確かさを感じさせるものだった。
【取材・文:今井智子】
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リリース情報
セットリスト
YOSHII KAZUYA SUPER LIVE 2014
~此コガ原点!!~
2014.12.28@東京・日本武道館
- SPINNING TOE HOLD
- 真赤な太陽
- WEEKENDER
- ウォンッテッド(指名手配)
- おまえがパラダイス
- サムライ
- VS
- 夢の途中
- あの日にかえりたい
- 百合コレクション
- 人形の家
- シュレッダー
- さらばシベリア鉄道
- MUSIC
- 点描のしくみ
- ビルマニア
- SPINNING TOE HOLD
- 襟裳岬
- アバンギャルドで行こうよ
- SUCK OF LIFE
- FINAL COUNTDOWN
- クリア
- ボンボヤージ
お知らせ
全国ツアー(ツアータイトル未定)
2015/05/02(土)松戸 森のホール21 大ホール
2015/05/10(日)新潟県民会館
2015/05/13(水)東京NHKホール
2015/05/14(木)東京NHKホール
2015/05/22(金)サンポートホール高松・大ホール
2015/05/23(土)神戸国際会館こくさいホール
2015/05/30(土)広島アステールプラザ 大ホール
2015/05/31(日)熊本市民会館崇城大学ホール(熊本市民会館)
2015/06/06(土)仙台サンプラザホール
2015/06/10(水)大阪フェスティバルホール
2015/06/13(土)金沢本多の森ホール
2015/06/14(日)名古屋国際会議場センチュリーホール
2015/06/19(金)札幌市民ホール
2015/06/28(日)福岡サンパレスホテル&ホール
2015/07/02(木)大阪フェスティバルホール
2015/07/15(水)東京国際フォーラム ホールA
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。