パスピエ『娑婆ラバ』発売記念ライブイベント TSUTAYA O-EAST
パスピエ | 2015.10.08
大胡田なつき(Vo)が手掛けたアートワークが飾られているステージ上。花札の絵柄をアレンジしたヴィジュアルが、非日常のムードを醸し出している。やがてSEが鳴り響き、まずは楽器隊の成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)が登場。お揃いの狐のお面を着用しているのが目を引く。続いて現れた大胡田がお面を外し、スタートしたのは、最新アルバム『娑婆ラバ』の収録曲「つくり囃子」。哀愁を帯びた和的なメロディが高鳴っていく。観客は恍惚の表情を浮かべながら身体を揺らす。何やらこの世とはまた別の空間へと繋がる扉が開かれたような感覚になる幻想的なオープニングであった。
「贅沢ないいわけ」「トロイメライ」「アンサー」も連発されてから迎えた最初のインターバル。「お待たせしました。パスピエです。ワンマンは久しぶりなので楽しみにしていました」と挨拶をしつつ、アートワークで彩られたステージについても触れた成田。セットを組んでライブをするのは初めてなのだという。そして、「『娑婆ラバ』の曲はお互いに初めてじゃない? だから一緒に気持ちいいところを見つけながらやれたらいいなと」、大胡田が意気込みを語って、再び演奏へ。「蜘蛛の糸」のイントロが始まると、観客の間から手拍子が起こった。妖艶なメロディが、まるで呪文のように人々の本能を一層開放していく。『娑婆ラバ』の楽曲の不思議な魔力を感じる一場面だった。
お馴染みの「トーキョーシティ・アンダーグラウンド」「△」を経て突入した「術中ハック」も新鮮な刺激に満ちていた。シンセサイザーの音色、躍動するビートが加速する観客のダンス衝動。三澤はギターとバリトンギターが一体となったWネック(ライブで初お披露目だったらしい)を取り出し、幅広い音域の旋律を加える。精緻なアレンジと表現力豊かな演奏で裏打ちされているパスピエの音楽の凄味をまざまざと感じた。続いて「裏の裏」と「MATATABISTEP」も披露した後、バンド活動に対する想いを語った成田。「俺らって表に出てこなかったシャイバンド(笑)。そんな俺らがいろんなきっかけを今年もらえました。これからもパスピエを堪能してもらえたらと思います」。そして、「じゃあ、2015年、最初に世の中に出した曲をやります!」と大胡田が言い、「トキノワ」がスタート。学校のチャイムを思わせるギターイントロが放たれ、華々しくシンセサイザーが鳴り響くと、観客は一斉に歓声を上げた。フロア全体で振り上がるたくさんの腕の動きが、眩しいくらいにエネルギッシュ。この曲がファンに深く愛されていることを改めて実感した。
「これ、『娑婆ラバ』の曲じゃないけど知ってる? 踊れる?」、大胡田が呼びかけて始まった「シネマ」。柔らかに広がるサウンドが心地よい。穏やかな熱気に包まれた会場内を、さらに瑞々しい盛り上がりへと巻き込んだのが「最終電車」。成田による華麗なソロプレイも交えながらドラマチックに展開していった。そして、「今、本当にいい気持ち。初めてやる曲もあったけど、これからやる度に今日のことを思い出すんじゃないかと思います。では、次で最後の曲なんですけど……」、大胡田が言ったところ、観客の間から「えー!」という声が上がる。それに対して、「聴きたくないの?(笑)」と彼女が真顔で問いかけていたのが妙に面白かった。そんな和やかなコミュニケーションを経て、本編ラストを飾った「素顔」。歌詞が大胡田と成田による共作であるこの曲は、パスピエのこれまでの足跡、現在、未来が表現されているのだという。郷愁を誘うメロディの狭間から力強い意志も滲ませるかのような、とても感動的な演奏であった。
本編が終了。一旦ステージを後にした5人であったが、アンコールを求める声に応えて戻ってきた。「今日はシングルで出した曲以外、初披露のものばかり。『娑婆ラバ』は乗りやすい曲ばかりではなくて。“匂わせておいてすぐに断ち切る”みたいなことをするから(笑)。でも、こういうのは考える楽しみがあると思っています。パスピエにはパスピエなりの見せ方があるから。どうなるかと思ってたけど、今日は楽しくライブができました」(成田)。「幸せだなと思ってます。来てくれてどうもありがとう! いい眺めだね」(大胡田)。そして、来場者に配られることが事前アナウンスされていた“パスピエ謹製お土産”についても、彼らは説明した。用意されていたのは2点――大胡田が絵を描いた開運絵馬、成田が書いた『娑婆ラバ』のライナーノーツ+この日のライブのセットリストが掲載されたパンフレット。ライナーノーツについて「私、まだ読んでないんだけど……」と大胡田がふと漏らしたところ、心外そうに「読めよ!(笑)」と言った成田。リラックスした様子のやり取りが、観客を爆笑させていた。
アンコールで披露されたのは「S.S」。ハンドマイクでステージ上を巡りながら歌い、人々を巻き込んでいく大胡田の堂々とした存在感がものすごい。「♪S.S」という掛け声もフロア全体から上がり、最高の一体感が生まれていた。この曲の演奏を終えると、メンバーたちは去って行ったのだが、観客の興奮は全く収まる気配がない。歓声と手拍子が続き、5人は再び戻ってきた。「あれ? これ、終わらせられない感じ? 正直、挨拶をして終わろうと思ってたんだけど(笑)。じゃあ、気持ちに応えてラスト、1曲だけ」と成田が言い、メンバーたちと顔を寄せ合って相談を始めた。「ええと。今日、何曜日だっけ? まあ、金曜日くらいはフィーバーしますか?」、粋な言葉を添えてラストに放たれた「フィーバー」。「お前らフィーバーできるのか?」とやおが呼びかけ、ビートを叩き始めるや否や、会場全体が激しいダンスで揺らいだ。エモーショナルなフレーズを連発する三澤。ストラップを外して床にベースを立てながらプレイをするアグレッシブな姿も見せていた露崎。華麗なメロディを溢れ返らせる成田。軽快にステップを踏みながら歌う大胡田……5人の黄金のアンサンブルを強烈に印象づける完全燃焼の演奏となった。
「気をつけて帰るんだよ。またね!」と観客に呼びかけた大胡田。去って行った5人を見送った感無量の拍手。『娑婆ラバ』の楽曲の威力を鮮やかに証明したと同時に、現在のパスピエに漲る只ならないエネルギーを示したこのライブは、全観客にとって忘れられないものとなっただろう。今後の彼らは11月に全国9都市を巡るツアーを行う。そして、12月22日はいよいよ初の日本武道館ワンマンライブ。パスピエは唯一無二の魅力を磨き上げながら、逞しく前進を続けるはずだ。
【取材・文:田中 大】
【撮影:鳥居 洋介】
リリース情報
娑婆ラバ(初回限定盤)[CD+DVD]
2015年09月09日
ワーナーミュージック・ジャパン
01. 手加減の無い未来
02. 裏の裏
03. アンサー
04. 蜘蛛の糸
05. 術中ハック
06. 贅沢ないいわけ
07. 花
08. ハレとケ
09. つくり囃子
10. ギブとテイク
11. トキノワ
12. 素顔
[DVD]
パスピエ TOUR 2014 “幕の外ISM” at Zepp DiverCity(TOKYO)
01. - opening -
02. MATATABISTEP
03. トーキョーシティ・アンダーグラウンド
04. 七色の少年
05. - session -
06. チャイナタウン
07. はいからさん
08. 贅沢ないいわけ
09. S.S
10. シネマ
このアルバムを購入
セットリスト
『娑婆ラバ』発売記念ライブイベント
2015.9.25@TSUTAYA O-EAST
- つくり囃子
- 贅沢ないいわけ
- トロイメライ
- アンサー
- 蜘蛛の糸
- トーキョーシティ・アンダーグラウンド
- △
- 術中ハック
- 裏の裏
- MATATABISTEP
- トキノワ
- シネマ
- 最終電車
- 素顔
- S.S
- フィーバー
お知らせ
パスピエ TOUR 2015 “娑婆めぐり”
2015/11/04(水)仙台Rensa
2015/11/06(金)新潟LOTS
2015/11/11(水)高松オリーブホール
2015/11/13(金)広島CLUB QUATTRO
2015/11/14(土)福岡DRUM LOGOS
2015/11/16(月)鹿児島CAPARVO HALL
2015/11/21(土)大阪Zepp Namba(OSAKA)
2015/11/22(日)名古屋Zepp Nagoya
2015/11/26(木)札幌PENNY LANE 24
パスピエ 日本武道館単独公演 “GOKURAKU”
2015/12/22(火)東京 日本武道館
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。