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ライブハウスと画面越しにこころを通わせた「HUMANiATHOME」、その核心に迫る!

ircle | 2020.07.22

 大分出身の4ピースロックバンド・ircleが、7月10日に無観客配信ライブ「HUMANiATHOME」を開催した。今回のライブは、3rdフルアルバム『こころの℃』のリリースツアーファイナルを予定していた7月10日に合わせて企画された公演で、渋谷TSUTAYA O-Crestから生配信された。『こころの℃』という作品は、もともと4月にリリース予定だったが、昨今の情勢から6月に延期。さらにはツアーも全公演が延期という悲痛な状況となった彼らだが、「逆境に立とうが、今、自分たちができることをひたむきにやっていく」というircleが持ちうる強固な精神性が導いたこの日の無観客ライブからは、「希望」しか感じられなかった。

 開演時間の20時になると、「coming soon」の表示から画面が切り替わり、そこにはいつものライブハウスのステージがあって、その映像だけで心が躍った。そして、バックライトで照らされたステージにはショウダケイト(Dr)、伊井宏介(Ba/Cho)、仲道良(Gt/Cho)の姿があり、少し遅れて河内健悟(Vo/Gt)が登場。4人が揃うと、初っ端に「ホワイトタイガーオベーション」をぶっ放す。ドスの効いた低音とギターの高音とのコントラストに心を揺さぶられながら、作曲を担当した仲道がインタビューの中で「ライブの1曲目にやれる、アップテンポではない曲をずっと作りたかった」と話していたことを思い出す(参考:「生きること」が色濃く刻まれたフルAL『こころの℃』全曲解説インタビュー!https://music.fanplus.co.jp/special/2020061542908c3f0)。長年の構想、ここに極まれり!と言えるほど威風堂々としたこの楽曲が、ircleの持つ潜在的闘争心を表面化させているようだった。そして「ラストシーン」、<ぶち抜いて候>という意味をタイトルに宿す「B.N.S.」と続け、勢いはどんどんと加速していく。観客のいないライブハウスに立ち込める熱気は、観客がいない分いつもより少ないはずなのに、画面に映る河内の首筋はすでに汗で濡れていた。わかってはいたが、彼らは本気でライブをやりにきている。今持っている熱のすべてを費やして「ライブハウスで観るライブ」を伝えようと、がむしゃらになっている。その真っ直ぐな気持ちがびしびしと伝わってきて、感謝する想いとともにワクワクが止まらなかった。そんなこちら側の高揚する気持ちを見透かしたかのように、伊井が私たちに向かって煽り出す! その様子をうれしそうに見ていた河内の「踏ん張り合っていこう、2020! おい、今何してる? 元気!?」という掛け声をきっかけにかき鳴らされた「2000」では、思わず拳を振り上げていた。

 MCで河内は、カメラの奥にいる私たちがどこにいるのかを問いながら、「俺たちは、ライブハウスで相変わらず爆音を鳴らすことができております。これは時代、周りの人、愛情のおかげ。あなたはどこで観ている? どんな状況がある? 俺たちと出会ったのは何がきっかけ? あなたがどこにいても、見えているその風景から、もっともっといろんなものが見えるように、表現することを諦めませんので」と心強い言葉を贈った。映像を媒介しようとも、音楽には人間を突き動かす力がある。今の私たちは、ネット環境さえ整えば、どんな状況でもその恩恵を享受できる。そんな利便性が高いこの現代を、河内は「豊かで寂しい時代」と表現した。「悲しい」ではなく「寂しい」と言ったところが、なんとも彼ららしい。そして仲道がギターをアコギに持ち替え、丁寧につま弾かれる音の粒が「ハミングバード」へと誘う。<死んだように生きるなよ>という歌詞が、柔らかい曲調を伝って心に染み入った。さらに仲道が奏でるシンセサイザーによるピアノの旋律から、河内のファルセットがすっと通るメロウな「Sunday morning relight」へと続けた。

 そこからは一気に雰囲気を変え、河内の口笛をきっかけに、メリハリが効いたメロディワークで“夢と現”の世界を表現した「メイメツ」をプレイ! その「異世界の交流」というテーマは、続く「リンネループサティスファクション」にて“地獄と現”として引き継がれる。「疾走感」と呼ぶには泥臭くて猛々しいスピード感と、「無礼講」と呼ぶに相応しいハチャメチャ感満載の突き抜けたテンションは実に爽快! コーラスも声が掠れようがお構いなしだが、人間の本能に「歌えや踊れや騒げ!」とダイレクトに訴えかけるような吹っ切れっぷりが猛烈にかっこいい。さらに、そのままカルメンの雰囲気を色濃く持つ「ルテシーア」、ポップチューン「2人のビート」へと突入し、画面越しに伝わる熱気は益々ヒートアップしていった。

 そして、「今年はまだ、セミの声も聴いてないわ。その季節が来て、少しずつ晴れていけばいいなと思います。この曲もずいぶん古くなって参りましたが……」と河内が話し、「カゲロウと夏」を届けた。夏の終わりを歌った楽曲だが、夏が始まる前に聴いても変わらずに胸を締め付ける。寂しさを感じさせる余韻のなか曲が終わると、優しい愛情が豊かに歌われる「あいのこども」が続けてプレイされたのだが、この2曲の親和性の高さに驚くとともに感動した。このように昔の楽曲と最新曲が図らずとも共鳴する瞬間を体感した気持ち良さは、プレイリストの中で感じることはできない。これはライブでしか感じ得ない快感と感動であり、ライブでしか思い浮かべることができない情景だなと思った。

 そこから河内は、ircleが結成された当時のことを振り返りながら、「4人でガチャガチャと音を鳴らしているだけだった。夢にまで見たいろんなライブハウスで、いつか誰かの前で、大きな会場の中で、と言いながら『いつできるんやろ?』と思っていた。でも、足並みは人と違えど、少しずつできてきたんです。やけど2020年、再びそんな気持ちを味わっています。小さなウイルスによって、無理やり原点回帰をさせられている事態。ただ、俺らはまったく後ろ向きな気持ちを持っていない」と断言しながら、関わる人に感謝をしつつ、「いい方向に行くよ! 音楽も、ライブハウスも」と笑顔で告げた。その言葉に、気持ちがすっと楽になったのをたしかに感じた。そうだ、私たちの未来は明るい。いや、明るくしていくんだ――そんな前向きな気持ちにさせられた。そして河内は改めて、4人の人生とライブを観てくれている人との人生が繋がったことに感謝をし、「今はこれしかできんけど、これをやります」と「あふれだす」を届けた。<あなたを愛せたこの世界は/まだ腐っていない>という歌詞が、私たちに勇気をくれる。自由に人に会えない、出かけられない、ライブに行けない――現状に対するネガティブな想いを羅列しようと思えば、いくらでも書ける。けれどircleは、バンド自身も含めて誰しもが感じているであろう、そういった陰鬱な気持ちを「そんなこと言っていてもしょうがないだろ!」というような力技で跳ね除けたりはしない。まず互いを認め合い、わかり合おうとする。そしてその過程を懇切丁寧に踏んだうえで、バンドもリスナーも全員が楽しめる明るい未来へと向かおうとする。とはいえこれは、今のこの状況下だから発揮した力なのではなく、彼らが今までずっとやってきたことだ。バンドを愛し、音楽を愛し、そのなかで生まれては増えていく人と人との繋がりを愛し、信じるという連鎖を、彼らはずっと続けてきた。だからこそ<これぐらいしかないけど/全部あげる>という言葉が、自己犠牲ではなく、信頼関係という意味を持って自然と出てくるのだろう。改めてircleが築いてきたものの大きさを感じながら、続く「瞬」「セブンティーン」の熱を感じていた。

 そして最後に、河内は「配信や無観客ライブに、賛否両論出てくると思う。問題もたくさん出てくると思う、簡単にいくものじゃないから。でもな、やっていくんよ。こんなふうにしてでも、ライブハウスから音楽をやっていくんよ。文句言うなとは言わん。でもな、みんなあったかい気持ちで照明や音響やったり、カメラ切り替えたり、カメラに向かって本気で演奏をしたりしよんのや。賛否両論あったって、一緒にやっていくという気持ちで繋がったあったかさがある。機械は冷たいかもしれんけど、そのうち愛情を持ち始めるかもしれん。遠くからでも客ゼロでも、なんとかして繋いでいきたいんよ。そしたらまた会ったときに、もっとその温度は上がるやろ? 良くなっていくよ。だから繋いでいくんよ。できれば一緒に繋いでいきたいんよ」と語り、「エヴァーグリーン」で明るく締めくくった。

 「セブンティーン」の演奏に入る前、河内は「腐るなよ」と言った。この日のircleのライブを観て、本当にそうだな、腐っている時間なんてないよな、と思った。私たちが今、ライブハウスから離れた生活をしていようとも、あの場所で巻き起こる熱、共鳴する想い、重なる声を忘れたわけでは決してない。けれど、不満や文句ばかりに埋もれていては、未来に持っていくべき大事なものを見落としてしまうだろう。だからこそこうして「いい方向にいくように、一緒に繋げていこう」と手を差し伸べてくれる人がいることが、先の読めない現状に光る救いの糸なのだと思う。そして、ircleのライブを観て湧き上がった感情を一言で言い表すならば、冒頭でも言ったように「希望」だ。配信ライブなら簡単にできるという認識は間違っていると思うし、少なくとも彼らはそうは思っていない。配信だろうが無観客だろうが、ライブに人が関わっていることには変わりはないし、時代なんて関係なく、彼らにとってフォーカスすべき大事なものは、いつだって「人」なのだ。改めてそのことがわかった、素晴らしいライブだった。

【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:シマ】

tag一覧 J-POP 配信ライブ 男性ボーカル ircle

リリース情報

ircle『こころの℃』

ircle『こころの℃』

2020年06月17日

MURO_RECORDS / JMS

01.ホワイトタイガーオベーション
02.エヴァーグリーン
03.ハミングバード
04.メイメツ
05.B.N.S.
06.リンネループサティスファクション
07.ルテシーア
08.2人のビート
09.あいのこども
10.瞬(Album ver.)

セットリスト

HUMANiATHOME
2020.07.10@渋谷TSUTAYA O-Crest

  1. 01.ホワイトタイガーオベーション
  2. 02.ラストシーン
  3. 03.B.N.S.
  4. 04.2000
  5. 05.ハミングバード
  6. 06.Sunday morning relight
  7. 07.メイメツ
  8. 08.リンネループサティスファクション
  9. 09.ルテシーア
  10. 10.2人のビート
  11. 11.カゲロウと夏
  12. 12.あいのこども
  13. 13.あふれだす
  14. 14.瞬
  15. 15.セブンティーン
  16. 16.エヴァーグリーン

お知らせ

■ライブ情報

TRUST TOUR 2020 -Acoustic-
08/08(土)東京 渋谷TSUTAYA O-Crest
w/ 山本響(Maki) / 浜口飛雄也(moon drop) / 三浦弦太(LUCCI) / こうのいけはるか(WALTZMORE) / GUEST : 河内健悟(ircle)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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