レビュー
山下達郎 | 2011.03.09
雪の中の小さな花を見て、それを呼び声に、何かがオーバーラップし、セキを切ったかのように封印していた想いがブワーッと自身の心の中に再び広がっていく。それはまるで、抑えてはいるけど、我慢してはいるけど、時々噴出してしまう秘めた熱い想いだったりする。そのさまが手に取るように伝わってくる山下達郎のニューシングル「愛してるって言えなくたって」。
彼の音楽活動35周年の締めくくりとなる、2011年第1弾シングルは、上記の想いを、触れられないのはもとより、伝えられない思いとして、しんしんとやみそうな気配のない、いやそれどころか今後も降り積もり続けていきそうな雪に例えられた楽曲だ。 現在、草なぎ剛、今井美樹が出演し、話題のドラマ、TBS系日曜劇場『冬のサクラ』の主題歌としても起用されている同曲。既に聴いた多くの人が、この曲で歌われる主人公にシンパシーを抱いているようだ。
起用している楽器も多彩ながら、その用途は、あえてさりげなく。服部克久アレンジによるストリングスにしても、もっと仰々しく楽曲を劇的に演出させたがるものだが、神妙性を与え、あえてより光景感や情景感を演出する程度に控えられている。それはドラマティックな演出をあえて避けているが如く。それがまたこの曲のシチュエーションや心情が、特別な人たちのよる特別な物語ではなく、誰の心の中にもあったり、もしかしたら経験していたのかもしれない情景によりいっそうの同調を与えている。今回はそれに沿うような達郎の歌い方然り。あえて口に出してはいけない、心に秘めていなくてはならない想いのような歌い方が、より楽曲に信憑性やシンパシーを加えている。
今の想いの向こうにはしっかりとその雪も溶け、春が来るのを信じて待つ、健気な想いもヒシヒシと伝わってくる同曲。とは言え、想いを伝えられた時には、本当にそこに幸せが待っているのだろうか?その後の物語も色々と考えさせられる楽曲だ。
【 文:池田スカオ和宏 】