レビュー
栗山千明 | 2011.11.28
今年3月に発表された栗山千明の1stアルバム『CIRCUS』は、著名10アーティストの提供曲からなる作品であった。そこでの彼女は、各楽曲毎に違ったキャラクターとマテリアルを見せ、その様相はまさに女優ならでは。それぞれの役に成り切り、各々の歌世界を見事に描き出していた。
あれから8ヵ月。彼女のニューシングルが発表された。今回のシングルは、M-1、M-2共に椎名林檎が作詞/作曲/プロデュースを担当。東京事変の面々がバックを務めている。椎名と栗山のタッグは、今年3月発表のシングル「おいしい季節/決定的三分間」以来2度目となる。
まず、M-1「月夜の肖像」は、彼女自身が主演を務めるドラマ「秘密諜報員エリカ」の主題歌。スリリングで不穏なメロディの上、駆け抜けて行くようなサウンドが印象的な同曲は、伸びやかで凛とした栗山の歌声が光る楽曲だ。また、サビの歌詞のキチンと韻を踏みつつ描かれた、1番と2番のシンメトリー性にも注目して欲しい。「高機能(ファンクション)と連絡先(ジャンクション)」「野生と知性」「隠すと探す」「仮初めと常しえ」「灯りと翳り」「浮かんでと沈んで」ときて、最後は、「護りたいと温めたい」と、違った言葉ながら、同じ意味とも解釈できるワードで締めることにより、その2つのシンメトリーを全て同じ意味に変えてしまうこのレトリック。また、かなり長めのアウトロが楽曲が映しだす残像を聴く者各人の中に残してくれる。
そして、M-2には、同じタッグながら違ったタッチのナンバー「青春の瞬き」が待っている。こちらは柔らかく優しく、包まれているかのようなナンバー。ゆったりとしたグル―ヴと、たゆたうように艶やかで甘い部分を見せる栗山の歌声も印象的だ。
ここから新章を始めるシンガー、栗山千明。今度は誰のどんな曲で、彼女なりの役割を演じてくれるのだろう?
次は是非、そのクールビューティ―なイメージを思いっきりブッ壊す明るくハジけたキャラの楽曲を聴いてみたいものだ。
【 文:池田スカオ和宏 】