レビュー
安藤裕子 | 2011.12.01
安藤裕子のニューシングル「輝かしき日々」が主題歌の「カレ、夫、男友達」は、3姉妹が男に翻弄されながら力強く生きていく姿を描いたテレビドラマ。新作は、真木よう子演じる次女の治子をイメージして曲を書いたのだという。絶望の中から自分を貫き通す意志が強く表れた歌詞になっていて、とてもたくましい。ドラマの原作者である江國香織の作風のひとつである”絶望的に幸せ”な世界観を忠実に表現できている。恋愛だけでなく人生にも立ち向かう強さを持った歌だが、鍵盤から始まるこの曲のメロディは、キュートでポップな仕上がりに。音符1つ1つが弾むような愛らしさを持ったサウンドは聴いていて心地がいい。彼女にとって王道と言えるポップな音色に仕上がっている。
驚いたのは、未発表曲のカップリング「エルロイ(砂原良徳Remix)」。元電気グルーヴの砂原良徳が手掛けたこの曲は、安藤裕子にとって初のリミックス曲。守りたい気持ちはありつつも、破壊したい欲求も合わせ持った詞になっている。2008年にリリースされたシングル「パラレル」が彼女史上最速のアップチューンならば、「エルロイ」は最も攻撃的な詞。「エルロイ」の原曲は、“もう少し長くて、面白実験的バースがある。それはアルバムのお楽しみ”とのこと。
さらに、先出しされた「輝かしき日々」のミュージックビデオを見て、またびっくり。彼女は妊娠中のふっくらしたお腹で、意気揚々とピアノを弾きながら歌う姿を披露していたのだ。安定期に入っていたのだろうけれど、安藤さん、なんて大胆な。
今年の5~6月に行われたアコースティックツアーの一部を、妊娠のためにやむなく中止することとなった安藤裕子。出産後初となるこのタイミングで、力強く、攻撃的な2曲が収録されたのは、おそらく、音楽活動をストップせざるを得なかった絶望と、母親になった喜びの両方が、強さとなってこの曲に表れたのではないかと思う。この先、一段とたくましくなった彼女が、どんな新作を聴かせてくれるのか、今から楽しみである。
【 文:橋本恵理子 】