レビュー
トータス松本 | 2012.03.09
トータス松本の威力。それは、ソウル・マンとしてのスタンスだ。CM出演など、音楽活動以外でも活躍している彼だが、例えそれがどんな姿であっても、何をやっていても、見ただけで、はっきりと浮き彫りになって来るのが、ソウル・マンという姿である。イメージのぶれなさは、まるで、ソウル・マンというアイコンのようだ。
この威力の理由は何か。もちろん、これまでの長い音楽活動の実績も大きな要因だとは思うが、彼のキャラクターと作り出してきた音楽が、いつも無理なくリンクしていたのも、ひとつの要因ではなかろうか。
音楽も、歌うことも、愛する事も、トータス松本の中では、いつもその生活の中に、当たり前にあるもの。いつも彼の魂=ソウルの中に存在するものなのだろう。
そんな事を、改めてひしひしと感じるのが、ニューシングル「ブランコ」である。タイトル曲は、ウォームな趣きが特徴のアーシーなミディアム・チューン。歌詞もトータス松本らしさ満載。男女のラヴソングと捉えるならば、愛しい人に想いを素直に伝えられないシチュエーションか。実際に “宙ぶらりん”という言葉が出てくるが、まさに、その状態。ブランコの如く、自分の中でぐるぐるして、行ったり来たりしている。この“想いが行ったり来たり”する様子を、男性アーティストが綴ると、女々しく感じられるパターンも多々あるが、この曲はそう感じられない。そこがとても面白い。声や歌い方、言葉使いにも理由があると思うが、彼の男性としてのスタンス、もっと言ってしまえば人間としてのスタンスが、曲から見えてくるのがその理由だろうーー自分の魂=ソウルには、嘘はつけない、というスタンスが。
デビューから本年で20周年を迎えるトータス松本。日本屈指のソウル・マンは、今日も、相変わらず、大きく口を開け、大声で歌っている。
カップリングには、サビに絡む泣きのギターが曲のスケール感につながっている「ふたりでいたい」、さらに「上を向いて歩こう」のカバーを収録。初回盤には、2011年に行われた「歌う!トータス松本列伝!」のライヴDVDも同封されている。
【文:伊藤亜希】