レビュー
paionia | 2012.03.08
「とにかく良い音楽を作りたい」──そんなシンプルかつ、最も困難なことを信念に掲げ、下北沢を中心に活動している3ピース・ロックバンド、paionia。3月7日にリリースされた「さようならパイオニア」は、彼らの1stミニアルバムだ。タイトルで別れを告げているのは、昨年秋にバンド名をカタカナからローマ字表記に変えた、自分達自身の過去に対してだろうか。
聴き心地が良く、心に優しく響き渡るギターロック。そのサウンドに乗せられた歌詞は、<大人だったら楽できるのになあ>と、若さを呪い(「no youthful」)、酒の力を借りないと本音を出せない自分の不甲斐なさを嘆き(「素直」)、遠くへ行ってしまった人と過ごした記憶を、ひとつずつ思い出しながら、忘れることは簡単だと強がる (「彼女の握る手」)。全収録曲の作詞・作曲を高橋勇成(Vo/Gt)が手がけているのだが、彼の生み出す世界は、温情と感傷に満ちていて、どこか冷めている感じもする。
それは、今時の若者に当てはまる部分も多いだろう。別に望んだわけでもないのに「ゆとり世代」と蔑まされ、世の中に対して醒めずにはいられない彼/彼女達の姿が、そこにじんわりと映し出される。そんなリアリティのある歌詞だから、ついそういった考察をしたくなってしまうのだが、そんなものがどうでもよくなるぐらい、曲が良い。とにかく良いのだ。どんなに聴いてもすり切れることがない楽曲達が、彼らの今後に期待を抱かせる。
「とにかく良い音楽が作りたい」──掲げられた信念は伊達じゃない。
【文:山口哲生】