レビュー
いきものがかり | 2012.07.18
曲をしっかりと最後まで聴かせる……というポイントに置いては、日本屈指のアーティストであろう。ゆえに、このグループは、混沌としたシーンの中で、揺るぎない普遍性を得たのだとも思う。
いきものがかりのニューシングル「風が吹いている」は、7分40秒にも及ぶ、ミディアム・バラードである。
ストリングスを使った抒情的なアレンジと、力強くポジティヴなメロディ、メッセージ性を含んだ歌詞と、ともすれば、トゥー・マッチになりがちな楽曲を、極上のポップ・ソングに仕上げている。
このポップスとしての軽やかさの残し加減、楽曲に対するバランス感覚が、いきものがかりの個性であり魅力だと、私は思っている。本作では、その“魅力”が、じつにわかりやすく、聴く者に響いてくる。
曲を聴かせるという個性、その個性を担う要素は、多々あれど、まずは、ボーカルの吉岡の声質とボーカルスタイルがあげられるだろう。特に、彼女の滑舌の良さは、言葉をそのまま意味で、聴く者の意識に落とし込む武器にもなっている。作詞・作曲を手掛ける水野のメロディのストレートさ、そして言葉ひとつひとつを大切にした譜割も、前述した魅力につながっている。加えて、今作で編曲を担当した亀田誠治の手腕もお見事。壮大さを踏まえながら、全体をまろやかで、優しく丸みの感じられる、聴いていて落ち着くサウンドに仕立てている。
そんな中、エンディングのアレンジには、遊び心が感じられる展開も。吉岡の声量を生かした、壮大で厳粛な趣きが特徴だが、この展開を最後まで使わずに、予感をはらんだまま、エンディングまでテンションをキープしたまま、楽曲を表現していく様に、いきものがかりというグループの底力と個性、そして、プライドを感じる。
【文:伊藤亜希】