レビュー
吉井和哉 | 2012.08.29
8月29日にリリースされた吉井和哉のニューシングル「点描のしくみ」。映画「鍵泥棒のメソッド」の主題歌にもなっているタイトル曲は、昨年リリースされたミニアルバム『After The Apples』同様、全楽器を本人が演奏している(カップリングの「海へいこう」「ロックンロールのメソッド」には鶴谷 崇がオルガンで参加)。“点描”という、無心にひたすら点を打ち続ける作業通り、冒頭はミニマムな音が静かな熱をもって躍りはじめる。そして、積み重ねた点達がやがて芸術的な一枚の絵として完成するように、音像が爆発的に広がり、強力なカタルシスを生み出すロックナンバーだ。ちなみに、本作のCDジャケットは天描画家・大城清太が担当。繊細で生命力に溢れた点描画にも、是非注目していただきたい。
それにしても、本作の収録曲達はいつにも増して言葉が、サウンドが、そして彼の歌声が身体の中に入ってくる。そして、どの曲も優しくて、力強い。カップリングの「海へいこう」は戦争を題材にした、かなり生々しい言葉が並ぶアコースティックナンバーで、どことなく物悲しさを感じさせる部分もある。しかし、決してネガティヴの深海に引きずり込むようなものではなく、とても凛としていて、心を潤してくれる。それは、「ロックンロールのメソッド」にある<今もう一度 君と改めてロックンロール>と歌い上げる“決意表明”が、そう思わせてくれるのだ。シングル「点描のしくみ」には、再び声高らかにロックを叫ぶ、吉井和哉の決心が詰めこまれた意欲作で、私達を、そして彼自身を奮い立たせるような力が漲っている。聴き終えた瞬間に、彼の次なる作品に期待が高まること間違いなしだ。
【文:山口哲生】