レビュー
米津玄師 | 2013.10.28
新しい音楽が生まれる場所は時代と共に変化する。エアチェックという言葉を生んだFMラジオ全盛期にはじまり、トップテン~トレンディドラマの隆盛時代にはテレビからミリオンヒットが続々と生まれた。ここ十年は夏フェスの動員が新人バンドの実力をはかるバロメーターだ。新しい価値観を持つ音楽は常にその時代の最先端の場所から生まれてくる。そして今、ネット発のボカロPと呼ばれる人たちがその役割を引き継ごうとしてる。そこに間違いなく若い才能が蠢いている。
そんなボカロPの中から台頭してきた米津玄師(よねづけんし)は、もともとハチ名義で楽曲を制作、自ら歌うというスタイルでニコ動を基盤に人気を得ていた。米津玄師としてリリースした『diorama』は新人としては驚異のオリコンチャート5位を獲得。その後、米津玄師はシングル『サンタマリア』でメジャーデビューを果たす。
米津玄師の2ndシングルとなる『MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー』は、収録の3曲ともに性急に刻むリズムと祭囃子のように賑やかなサウンドが印象的な楽曲だ。秀逸なメロディラインが耳を引いた前作に比べると、『diorama』やハチ名義の楽曲に近い。過剰に詰め込まれた圧倒的な音の情報量で聴き手の意識を呑み込んでいく。
そして、「MAD HEAD LOVE」にはとても印象的なフレーズがある。《愛と言うその暴力で君と二人で喧嘩したい》。殴り合ってでも他者とつながることには絶対的な価値がある。前作で「他人とは理解し合えないもの」という前提を歌った米津玄師がこうして今作では真逆の真実を歌に込めた。とはいえ、表題の2曲目「ポッピンアパシー」では、あいもかわらず孤独を嘆くのだけど。
裏・表を表現したこの2曲。リスナーは何を感じとるのだろうか。
【文:秦理絵】