レビュー
androp | 2013.11.20
映画『ルームメイト』主題歌となった「Missing」。andropの音楽はシンセサイザーを効果的に採り入れたダンスミュージック的な性質を帯びたものも数多いが、この曲はギター、ベース、ドラムによる生音を主体としたサウンドで彩りながら、美しいメロディをじっくり展開させている。そして、曲がスタートするや否やリスナーの胸に突きつけられるのは、何とも言えず深い喪失感だ。どれだけ月日が過ぎようとも、決して埋まることのない空白。バンドサウンドと歌声がエモーショナルに高鳴れば高鳴るほど、ポッカリと空いた穴が浮き彫りにされていく。《傷ついて傷ついて 人は皆大人になると言う》という歌詞の一節がとても印象的だ。この曲の主人公の背負った悲しみが未だ過去のものになっていないことを窺わせる。いつの日か傷が癒えて前へと進めることを願いつつも、何も変わらぬまま、いやむしろひたすらに痛みを募らせていることが伝わってくる。
「Missing」の原型はandropの活動初期から存在していた。ソングライターである内澤崇仁(Vo & G)が既にインタビューなどで明かしていることだが、彼のボイストレーナーが急逝した体験を切っ掛けとして書き始められたのだという。曲の全篇に漲る切実さ、ストレートに心情を投げかけてくるトーンの源は、そのような背景にあるのだと思う。しかし、ごくパーソナルな体験から生まれたものではありつつも、「Missing」は圧倒的な普遍性を伴って迫ってくる曲だ。日々を生きる中で不可避な出会いと別れ、決して整理されないまま胸の奥で疼き続ける痛み……これらと無縁のまま生きている人なんて、おそらく何処にもいないだろう。そんな理不尽を背負いつつも、何かを求めて生き続けている我々に優しく寄り添ってくれるのがこの曲なのだ。
そして、カップリングの「Melody Line」も素晴らしい。躍動する力強いビート、光溢れながら広がる音像、切なくなるくらいに瑞々しいメロディを目一杯に体感させてくれる。ライブで演奏される度に、無上の幸福に満ちた空間を作り上げ様が容易に想像出来る。最高の仕上がりの2曲を世に送り出し、ますます幅広い人々にそのかけがえのない魅力を伝えていくに違いないandrop。今後、彼らはさらにどんな音楽を届けてくれるのか? 未来への期待も清々しく加速してくれる最新シングルだ。
【取材・文:田中 大】