レビュー
くるり | 2013.12.18
くるり
『最後のメリークリスマス』
くるりの“はんなり”ロック
くるりのニューシングルは、バンド史上初のクリスマスソング。メロディメーカー岸田繁が本領を発揮して、初めて聴いた時からいきなり“スタンダード”入りしそうな予感のある佳曲だ。
桑田佳祐が好んで使いそうな黄金のコード進行に、ひと工夫加えているところがくるりらしい。素晴らしいメロディに乗せられた歌詞には、クリスマスと歳末気分の入り混じった日本らしい切ない季節がよく描かれている。そして、その切なさを温かく包んでいるのが、“生楽器の音色”だ。特にファンファンのトランペットの音色が曲を豊かに彩っている。ニーノ・ロータが音楽を担当したイタリアの傑作映画『道』のテーマを彷彿とさせる、柔らかい金管のトーンが耳にやさしく響く。その他、チューブラベルや大口径のドラム、ウッドベースが効果的に使われていて、くるりらしいクリスマスが演出されている。
くるりはウィーン録音のアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』で、オーケストラとの本格的な共演を果たした。クラシックを聴いて育ったミュージシャンは珍しくないが、ここまでポップに昇華したロックは前代未聞で、驚かされた。そこには小学校で聴いたクラシックの楽しさが反映されていて、誰にでもわかる交響楽ロックが提示されていた。
くるりは現在、岸田、ベースの佐藤征史、ファンファンの3人で活動している。3人しかメンバーがいないのに、そのうちの一人が管楽器というのは、J-ROCKシーンではかなり異例のことだ。しかし、そのファンファンが実にいい存在としてくるりの音楽を形作っている。その意味でいうと、「最後のメリークリスマス」は、ファンファンというメンバーを得てたどり着いた最高のシングルと言えるだろう。
そうして、今の音楽のエッセンスとクラシカルなセンスがうまく合体しているのは、くるりが京都のバンドだからなのかなと思った。何年か前から、くるりは活動の拠点を地元・京都に移している。“はんなり”は「上品で明るく華やかな」という意味の京言葉だが、くるりは「最後のメリークリスマス」で“はんなりロック”を完成させたのだと思う。
ちなみに、トラックの最後に付け加えられたベートーベンの「歓喜の歌」が年末気分をさらに盛り上げてくれますよ。お聴き逃しなく!
【文・平山雄一】