レビュー
Gotch | 2014.03.12
連載 第16週
Gotch
『Wonderland / 不思議の国』
自分の体重分のヒビを入れろ
Gotch
『Wonderland / 不思議の国』
自分の体重分のヒビを入れろ
遠くで原発のアラートが鳴っているのに、新しい家電のスペックをiPhoneで調べている感じ。違和感をとらえにくくなっている時代に、この「Wonderland / 不思議の国」を聴くと、なんだか背中がムズムズしてくる。
アジカンの後藤正文こと“Gotch”の新作は、初のソロアルバムからの先行シングル『Wonderland / 不思議の国』だ。打ち込みのリズムが作り出すクールなグルーヴと、 アコースティックギターが醸し出すハートウォームな響きが同居する。それはそのまま皮肉とユーモアになっていて、昔の目覚まし時計のように、心の中のベルをひりひり鳴らす。「起きたくないなぁ」とボタンを押そうとして、ベッドから転がり落ちてしまったら、あなたはGotchのメッセージを受け取ったことになる。転げ落ちたら、自分の体重分の痛さで目が覚める。ともあれ、起きなければ、何も始まらない。Gotchはそのことを、ややのんびり歌っている。
この“ややのんびり”が、大事。10周年を迎えてロックバンドとしてのタイトさを増すアジカンとはちょっと違う、Gotchのアプローチが新鮮だ。超モダンなシステムの背後に潜んで、ズルい罠を仕掛けてくる連中と渡り合うには、少しズラした対応が必要。♪ヌルく集って輪になるな♪というエッジーなひと言が耳を射る。兎の耳を付けたGotchが、雑踏の中にたたずむジャケットにも、そんなメッセージが込められている気がする。
このシングルはインディーズからリリースされるが、ロックを含むカルチャーシーンにインディーズ側からヒビを入れることができるか。それには、リスナーのあなたの体重が必要なのだ。
【文・平山雄一】