レビュー
KANA-BOON | 2014.05.21
KANA-BOON『フルドライブ』
青いヒビ割れを破って、何が誕生するのだろう
タイトル通り、スピード感満載のシングルだ。「何をそんなに急いでるの?」と問いかけたくなる気持ちを抑えてトラックに耳を傾けると、急いでいるのは僕の方なのかという思いが噴き出してくる。このシングルはKANA-BOONの今の活動が“フルドライブ”であることを、単純明快に伝えてくれる。急成長を期待している僕に、メンバーが「これ以上、無理っスよ!」と笑顔で歌いかけてくるハッピー・チューンなのだ。
「フルドライブ」はKANA-BOONの中で、いちばんシンプルな歌詞を持っている。これまでのナンバーは、“口惜しい思い”や“負けん気”がいろんな言葉を使って描かれていた。が、今回は「ぐずぐずしてると置いてくぜ」と言わんばかりの勢い。だったら真っ直ぐ最短距離を行くのかと思うと、♪フルドライブ 走れ フルドライブ 曲がれ♪。曲がっちゃうのかよと、ツッコミを入れたくなる。
この歌詞はシンプルだけど、幼稚ではない。ただただ、単純なのだ。それはKANA-BOONの決意が、また一回り強くなったことを表わしている。今、音楽シーンに切り込んで行くには、よりシンプルなスタイルが必要だと言うことを、彼らは身に沁みてわかっている。
普通、“成長”と言うと、いろんなものを身に付けて複雑化していくことだと思われがちだが、KANA-BOONは反対の方向を選んだ。デビューしてからシンプルになって行くバンドは、そうそういない。もっと分析的に言えば、最大の武器である初期衝動を意識的に残すために、単純化を図っているのだ。結果、KANA-BOONのいちばんの魅力である“青さ”が、色を深めた。そのキーワードは歌の中にある。♪単純さ、トリッキーに生きる♪。トリッキーに生きるには、テクニックが必要なのに、それを「単純さ」と言い切るところが面白い。鮮やかな青いヒビ割れを破って、KANA-BOONはこれからどんな音楽を生み出していくのだろう。
超期待のニューカマー、いやいや、だから、もう期待は通り過ぎて、2014年を引っ張るニュースターKANA-BOONのお出ましだ。
【文・平山雄一】