レビュー
エレファントカシマシ | 2014.06.11
エレファントカシマシ
『Destiny』
ロマンティストの日常
80年代バンドブーム組の中で、エレファントカシマシはダントツにロマンティックなバンドだ。男のロマンは時として“照れ”に隠され、いっそ乱暴な振舞いを呼んだりする。当初、エレカシはそのロマンが暴走気味に炸裂して、周囲に近寄りがたい印象を与えることになる。だが、バンドの実態は、地元仲間の結び付きを今もキープする、純情可憐な方々なのである。
一昨年、ボーカル&ギターの宮本浩次が急性感音難聴を発症してバンド活動を休止したが、去年、見事に復活。今回の「Destiny」は、半年ぶりのシングルとなる。プロデュースは亀田誠治。手堅いアレンジで、王道のミディアム・ロックバラードを聴かせてくれる。
♪時のはざまにばらまいて来た 夢と希望 俺の生命♪は、 自分たちの信じる道をずっと歩いてきた、このバンドにしか歌えないフレーズだ。さらに、♪明日も生きてゆくつもりさ まだ見ぬ夢を見たいから♪と続く。「男は背中で語る」とはよく言ったものだが、今どきそんな男は滅多にいない。これがエレカシの希少価値であり、面目なのだ。
そして「Destiny」を聴いていて、ふとデビューアルバムに入っていた「花男」という歌を思い出した。♪遠くを歩いてる 俺の姿よ どうしたわけか 涙ほろり ♪。デビューの頃、すでに幻視していたバンドの姿が、「Destiny」に投影されている。しかし、そこには後ろ向きな自己陶酔や懐古趣味は微塵もない。亀田の仕事はと言えば、バンドの透明度を高めることに徹していて、余計なことは何もしていないのが、いっそ清々しい。
エレカシは、“純情一本道”を今も歩んでいる。人はそれをDestiny=運命と呼ぶ。その崇高さは、やはり近寄りがたい。人の心に土足で踏み込む輩の多い21世紀にあって、エレカシは珍しく“心の居住まい”を正してくれるバンドだ。
そうして、近寄りがたいくせに、人懐っこい。この相反する佇(たたず)まいこそが、エレファントカシマシのヒビなのだ。
【文・平山雄一】
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