レビュー
androp | 2015.03.05
中谷美紀主演のドラマ『ゴーストライター』の第1回目を見たとき、エンディングで流れ出したandropの「Ghost」が、その衝撃的なドラマの余韻を引き継いで、とても印象に残っていた。ドラマで描かれているのは、はからずもゴーストライターと人気小説家という関係で結ばれたふたりの女性。その心情を表すように、孤独、葛藤、焦燥、情熱、そんなヒリヒリとした感情が滲み出たスローバラードが静謐なドラマのトーンとよく合っていた。
ここ最近のandropは書き下ろしによるタイアップ率がぐっと上がっている。昨年8月にリリースされた「Shout」はドラマ『家族狩り』の主題歌で、そのカップリング「Run」はFIFAワールドカップのキャンペーンソング。さらに、新曲「Yeah!Yeah!Yeah!」が三ツ矢サイダーのCMソングとなることも発表されたばかりだ。いずれも対照に寄り添って丁寧に書き下ろされた楽曲は、それぞれ新しいandropの表現を開拓するきっかけにもなってきた。それはソングライティングを手がける内澤崇仁(Vo・G)の生真面目な性質と、音楽家としての誠意とこだわりがあればこそ実現してきた、幸福なコラボレーションだろう。
そんななか、今回の「Ghost」という楽曲は、特にコラボ感が強い曲だと思う。オープニングで、小説家を連想される道具のひとつ=タイプライターのキーをカタカタと叩く音が録音されいて、まるでひとつの楽器のように曲の一部になっているのだ。その音は「タイプライター」と言われればそうだが、「楽器」として聴けば、不思議にあたたかく、アナログの手触りを感じさせてくれる音でもある。そんなふうに一音一音に細やかな工夫が込められた「Ghost」は、決して一筋縄ではいかないバラードソングなのだ。だからこそ、ドラマと切り離して聴いてみたときにも、新鮮な感動が味わえる楽曲になっている。最後のフレーズが終わり、ふっと息を吐くその音まで大切に噛みしめたい1曲だ。
【文:秦理絵】