レビュー
aiko | 2015.04.29
aiko「夢見る隙間」
自分から“片想い”と言ってしまう、aikoの恋愛プレゼン効果
aikoはラブソングの名手だ。ラブソングの名手といっても、さまざまなタイプがある。情景描写を駆使して、ため息の出るような恋の雰囲気を伝えるのが上手な人。相手の心理を鋭く分析して攻略していく、アグレッシヴな恋愛戦略家もいる。あっけらかんと恋の始まりを歌うのは、若いソングライターたちだ。恋の終わりばかりを専門に描く者もいる。
aikoはこうしたラブソングのバリエーションのほとんどをカバーする優れたソングライターだが、中でも特に“恋の心構え”をこれまでたくさんプレゼンテーションしてきた。「花火」では、“疲れてるんならやめれば”とアドバイスし、昨年の「ハレーション」では“このまま声を聴いてるのが好き”とためらいを楽しんでいた。
そしてニューシングル「夢見る隙間」には、かなり手のこんだ仕掛けが潜んでいる。この歌のテーマは、一見、歌い出しの“これが最後かもしれないと”という仮定にあるように聴こえる。最後かもと仮定すれば、相手を大切に想う気持ちが増すからだ。
しかし、僕が聴く限り、「夢見る隙間」の核心は2コーラス目にあるように思う。“片想い”という言葉が出て来るのだ。“これが最後かも”と不安になる原因は、相手が思う以上に自分が恋していることにあるのだが、それを自分で“片想い”と自覚することは難しい。片想いは、一方的な恋の形だからだ。しかし、aikoはさらりと提案する、♪あなたの姿見てるだけで 笑ってこぼれる片想い♪と。
これは、かなり達人の提案だ。現在進行形の恋愛を、片想いと自覚すると、大きく気持ちが変わってくる。夢見る隙間もないほど自分を追い込む言葉でもあるが、そこは“笑ってこぼれる”とするaikoの余裕が憎いばかりだ。
女性の描く分析派ラブソングの中には、あまりの鋭さに男性 リスナーを怖がらせるものもあるが、aikoのラブソング・ファンには男性も多い。それは、aikoがずっと “恋愛は楽しむもの”というライフスタイルを貫いてきたからだ。彼女は、心構え一つで恋愛の景色を明るく変えるマジックをよく知っている。
【文:平山雄一】
リリース情報
夢見る隙間(初回限定仕様盤)
発売日: 2015年04月29日
価格: ¥ 1,200(本体)+税
レーベル: ポニーキャニオン
収録曲
1.夢見る隙間
2.未来を拾いに
3.さよなランド
4.夢見る隙間(instrumental)
※初回限定仕様盤はカラートレイ仕様となります。