レビュー
indigo la End | 2015.06.17
ボーカル川谷絵音がゲスの極み乙女。をはじめる前から続けているバンド、indigo la Endは、今年で結成から3年目。当初のサウンドはいまよりも静謐で、どこか薄い霧のかかったような表現が魅力的だった。それが変わってゆくのは、ゲス乙女。との両立と、メンバーの脱退・加入が大きいだろう。バンドが強靭なグルーヴを得て、サウンドに華やぎが増し、音像が豊かになった。しかし、変わらないのは、ソングライティングを手がける川谷が紡ぐ、切なさを掻き立てるメロディと、徹底して歌を大切にした音づくりだ。
indigo la Endの3枚目のニューシングル「悲しくなる前に」を聴けば、そんな、川谷がずっと大切にしてきた表現のあり方が、幾多の変遷を経て、いま最高と言える場所に着地していることを、まざまざ感じることができる。本作は、ゲスの極み乙女。の3rdシングル「ロマンスがありあまる」との同時リリース。前回のワンマンツアーでサポートドラムを務めた佐藤栄太郎が正式メンバーに加わり、新体制となったインディゴの初音源となる。
そんな佐藤を歓迎するように、表題曲「悲しくなる前に」は軽快なドラムを合図に幕を開ける。疾走感溢れるメロディにのせて、サビでは、タイトルの《悲しくなる前に》という言葉に、《あなたを忘れちゃわないと》という切ないフレーズが続く。“忘れること”は時間だけにしか解決できない厄介なことがら。だが、そこに抗うようにぐるぐると悶絶する様を丁寧に描く。川谷は、こういう表現が本当に巧い。そして次に訪れるのが「渇き」だ。マイナーなトーンに後鳥の存在感のあるベースが映える。「悲しくなる前に」の女目線から、「渇き」の男目線へ。まるで、ひとつの物語の裏表を見るような構成が面白い。
喪失をテーマにした2曲のあとは、鼻歌を口ずさむような軽やかなコーラスが印象的な「夏夜のマジック」で、ガラリを雰囲気が変わる。大人っぽいムードで、夏の夕暮れにピッタリのミドルナンバー。遠くに聴こえる祭り囃子に背中を押されるように、少し大胆になる心、それを夏だけの特別な《マジック》と呼ぶ。湧き立つノスタルジーに胸がキュンとなる。個人的には3曲中いちばんぐっとくる1曲だった。
7月から開催するワンマンツアーでは、この曲にちなんで“ナツヨのマジック”と名付けて(こう書くと人の名前みたいだ)全国をまわるindigo la End。
そのファイナルはいよいよ渋谷公会堂で迎える。
【文:秦理絵】