レビュー

ゲスの極み乙女。 | 2015.10.14

 ゲスの極み乙女。の新譜を聴くときにはいつも、大袈裟ではなく、未開の地への冒険にでも出るようなドキドキワクワクがある。川谷絵音(Vo・G)、休日課長(B)、ちゃんMARI(Key)、ほな・いこか(Dr)という4人の卓越した演奏力だからこそ実現可能な、もはや無限とも思われるバリエーション豊かな楽曲の展開は、私たちリスナーに、決してその先を読ませてくれない。思い返せば、2015年は、4月に「私以外私じゃないの」、6月に「ロマンスがありあまる」と、立て続けにシングルリリースを重ねてきたゲス乙女。いよいよ今秋には、初のアリーナツアーにも挑んだ彼らだが、今年3枚目のシングルとしてリリースする「オトナチック / 無垢な季節」もまた、こちらの予想のはるか上を鮮やかに超えていく、とても濃厚でスリリングな4曲が収録されている。

 1曲目の「オトナチック」は、出だしのラップからキャッチーなサビへと抜けていく、これぞゲス乙女。という構成のなかに、印象的なコーラスワーク、どこか80’sの雰囲気を漂わせる間奏やアウトロなど、これまでにない新しいバンドの表現を発見できる。タイトルの“オトナチック”とは、オトメチックをもじった造語。《大人になってまで 言葉飲み込むなんてやめとけよ》と歌う歌詞には、大人らしくあることで失う、大切な何かの存在を切に訴えかけてくる。

 《泣けて泣けて泣けてくるんだ》と、夏の終わりの切なさを抒情的に描いた、両A面のもう1曲「無垢な季節」は、洗練されたピアノの演奏が疾走感を掻き立てるナンバー。その、美しくもセンチメンタルな雰囲気は、川谷絵音が手がけるもうひとつのバンド、indigo la Endの世界観にも近いか。曲中には、“無垢”の花言葉を持つ《ユリの花》が印象的に綴られて、二度と戻れないあの頃の喪失を繊細に映し出している。

 そんな両A面の2曲は、いわばシングルの表の顔だ。新しくもあるが、ある種、ゲス乙女のイメージの範疇にある楽曲だとすれば、その裏の顔ともいえる2曲のカップリングには、より大胆な遊びが詰め込まれている。「O.I.A」は、意味深な謎のタイトルが意表を突くが、最後まで曲を聴くと、《俺は 井の中の蛙で あった…》と出てくるので、その略号だろう。ゲームミュージックのようなピコピコサウンドと、生々しい楽器の演奏とが入り乱れる展開は、とても不思議な聴き心地だ。そして、実は今回のシングルで、個人的に最も素晴らしいと思ったのが、最後の「灰になるまで」だ。ダークで壮大なイントロから幕を開けると、バンドの演奏にのせてポエトリーリーディングのように、言葉が畳みかけられる。吐き出されるのは、虚しい毎日、つまらない人生と、先の見えない未来。だが、最後に、あらん限りの強い口調でこう叫ぶ。《だけど死にたくはないし 生きたい》と。メロディではなく、もはや叫びのようなサビでは、《1、2、3で灰になるまで歌う》ともある。ゲスの極み乙女。とは、こんなにも熱い想いを、直接的に吐露するようなバンドだったか。衝撃とも、感動とも、興奮とも違う鮮烈な余韻に、ただ呆然と打ちのめされてしまった。これだけ次々にリリースを重ねながら、またしても新境地。ゲスの極み乙女。というバンドの底は全く見えてこない。

【文:秦理絵】

tag一覧 シングル 男性ボーカル ゲスの極み乙女。

リリース情報

オトナチック/無垢な季節(初回限定盤)[CD+DVD]

オトナチック/無垢な季節(初回限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2015年10月14日

価格: ¥ 1,800(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

[CD]
1. オトナチック
2. 無垢な季節
3. O.I.A
4 灰になるまで

[DVD]
1. 「星降る夜に花束を」ゲス乙女集会 vol.4 ~幕張編~
2. 「ドレスを脱げ」ゲス乙女集会 vol.4 ~幕張編~
3. 休日課長の愛のカレー作り
4. 突撃!ゲスな六本木街頭リサーチ 

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