レビュー

MISIA | 2015.11.18

連載 第97週
MISIA「オルフェンズの涙」


MISIAの「オルフェンズの涙」は、混迷の現代に贈る“宇宙のブルース

 MISIAのニューシングル「オルフェンズの涙」は、TVアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」のエンディング・テーマだ。曲調はオーソッドクスなマイナーブルースで、かつてジャニス・ジョプリンが60年代末に名曲「サマータイム」をカバーしたとき、このリズムで哀しみを痛切に歌い上げた。

 今回の「オルフェンズの涙」を作曲&アレンジした鷺巣詩郎は、ワールドワイドで活躍するクリエーターで、MISIAには初期から楽曲を提供している。今でも彼女の大切なレパートリーになっている「THE GLORY DAY」は鷺巣作品。MISIAの初武道館で、ステージ上段に設けられたセットにオーケストラを従えて現われた鷺巣は、見事にコンダクターを務め、ライブを盛り上げた。その後もMISIAの重要な局面で、鷺巣はたびたび登場してきた。

 「THE GLORY DAY」はゴスペル、「オルフェンズの涙」はマイナーブルースを基にしていて、どちらも世界中のリスナーに愛されている音楽ジャンルだ。しかし、これらのジャンルをちゃんと歌いこなせるシンガーは日本に何人もいない。それゆえ、鷺巣がMISIAに託そうとしたものの大きさがわかる。陳腐な言い方だが、これほど“日本人離れ”したコンビは他にいない。そんな彼らが今回描くのは、宇宙規模のブルース。だからあえて言うなら、“地球人離れしたコラボレーション”ということになる。鷺巣のメロディに対して、MISIAは♪宇宙が歌うブルー ス♪というリリックを書いた。2人のアーティストとしてのスケールと、アニメのテーマとが相まって、至高の歌が生まれた。

 そんな2人の作品だから、少々のことでは驚かないつもりだった。ところが、彼らは見事に常識を超えてくれた。曲の半ばでリズムがいきなり4ビートからラテンへと変わり、またすぐに元に戻る。細かいリズムをはさんで元に戻ったとき、曲がとてもゆったり聴こえてくることに驚いた。このたった2小節のリズム・チェンジに、鷺巣は高度な音楽的アイデアをぎっしり詰め込み、MISIAはその“ペース・チェンジ”を真正面から受けとめて、チェンジ前以上に感情豊かに歌っている。普通、こんなことをしたら音楽の流れがせせこましくなってしまい、曲を台無しにしてしまう。ところが「オルフェンズの涙」は、この2小節のマジックのお陰で、濃厚な印象をリスナーに与えることに成功している。

 きっと2人が目指したのは、リリックのとおり“宇宙のブルース”だった。それは混迷を深める今の時代に必要なものに違いない。

【文:平山雄一】

tag一覧 シングル 女性ボーカル MISIA

リリース情報

オルフェンズの涙

このアルバムを購入

オルフェンズの涙

発売日: 2015年11月25日

価格: ¥ 926(本体)+税

レーベル: アリオラジャパン

収録曲

1.オルフェンズの涙
2.花

スペシャル RSS

もっと見る

トップに戻る