レビュー
indigo la End | 2016.02.03
indigo la End「心雨」
「心雨」に描かれているのは、普通とはまったく異なる恋愛観だ
スピッツのアルバム『ハチミツ』をカバーした『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』で、名曲「愛のことば」に挑んだindigo la Endの歌と演奏は素晴らしかった。複雑なアレンジと切ない抒情を両立させる音楽的手口に、今、最もクレバーなミュージシャンの一人である川谷絵音の真価が発揮されていた。
ニューシングル「心雨」は、そうした昨今のindigo la Endの傾向を踏襲している。ミディアムスローのテンポを細かく分断して仕掛ける各楽器のアンサンブルは、緻密にして柔らかい。こうした洗練されたアレンジは、時としてテクニック的な上手さが目立ってしまって若さを失いがちだが、indigo la Endはその罠におちいることなく活き活きとグルーヴを紡いでいる。
そんなアダルト・オリエンテッド(大人向け)なサウンドに、超センチメンタルなリリックを乗せた時点で、indigo la Endの“勝ち”は決まったも同然。と、思っていたら、さらにリリックにフックが用意されていた。
♪立ち尽くした2人は 流されようと必死で♪というフレーズが中盤に出てくる。普通は「流されまいと必死で」となるのに、完全に逆転している。このフレーズに続くのは、♪そんな時に限って地に足がついた♪。これも普通は「そんな時に限って地に足がつかなかった」なのに、川谷はこれでもかと常識を反転させる。
人生でも恋愛でも、流されてはいけないとするケースが多い。「地に足をつけろ」というアドバイスがほとんどだ。しかし流された方がいいケースが、稀に存在する。当然、それを見極めるのは非常に難しい。
そしてこの歌を聴いていると、必死で流されたいと願う恋人たちの切なさが押し寄せてくる。それは流されまいとする恋よりも、圧倒的に切ないと感じる。それを包むには、緻密で柔らかいアンサンブルが必要だった。
「心雨」に描かれているのは、普通とはまったく違う恋愛観だ。心して聴くように!
【文:平山雄一】
リリース情報
心雨
発売日: 2016年02月03日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
1.心雨
2.24時、繰り返す
3.風詠む季節