レビュー

赤い公園 | 2016.02.24

 「1曲勝負盤」と名付けた赤い公園の最新シングル「Canvas」は、その名に恥じない名曲だ。彼女たちにとってこれは6作目のシングルになるが、初めてタイアップもカップリングもなし。まさに1曲で勝負するのは、それだけの自信と自負があるからに他ならない。端正だが他にない美しさを持ったこの曲は、赤い公園らしさを満載しながらも、無理なく自然に耳に届く。今の時代に必要とされているポップ・ソングってこういうんじゃないの?と言いたくなるのが、この「Canvas」なのだ。

 津野米咲のギターを真ん中にした力強いバンド・サウンドで幕を開け、佐藤千明の柔らかなヴォーカルがふわっと空気を変える。”淡い 淡い”と軽やかな歌詞がメロディと一つになって、一度聴いたらすぐに口ずさんでみたくなる歌い出しだ。そして曲が進むほどに歌に込められた感情が膨らみ、バンドと一つになって春の日差しの中で途方に暮れる思いを描き出す。このキャンバスに津野米咲が描いているのは、春ならではの嬉しさや切なさや言葉にならない甘酸っぱい気持ちだろう。そのデッサンをバンドが美しく色付けしている。

 津野にとって、自分から生まれてくるメロディを音として放つのは、キャンバスに向かっているようなものなのだと思う。どんな線をどんなタッチで描こうかと、いつもワクワクしているように見える。意表をつきながらも美しいメロディは、クラシックもポップスも好きな彼女ならではの引き出しの多さが裏付けにあるのだろうが、その引き出しから思い切りハミ出してくるから面白い。それを他の3人とともに、あれこれ色付けしてできるのが赤い公園サウンドだ。佐藤の透明感のあるヴォーカルが、どんな複雑なリズムパターンも無理やりのメロディも歌いきっていることが曲を伝える大きな力なのも言うまでもない。

 この曲でもう一つ注目すべきは歌詞だ。春の日差しのように淡い思いを、軽やかな言葉使いで綴っているのだが、そこに“色”や“香り”、“風”や“光り”といった五感を刺激する自然をさりげなく織り込んで、聴くものの共感を呼び起こす。誰にでも訪れる春という季節にまつわることを、この曲を聴きながら思い出すことだろう。別れも出会いも春とともにやってくる。その中には二度と味わうことのない思いを残しているものもあるだろう。あるいは、これからそんな思いと出会うのかもしれない。いずれにしても、この曲はそんな思いと自然と重なって記憶の中に残っていくにちがいない。

【文:今井智子】

tag一覧 シングル 女性ボーカル 赤い公園

リリース情報

「Canvas」赤い公園の一曲勝負盤 ~Let’s Listen?~

「Canvas」赤い公園の一曲勝負盤 ~Let’s Listen?~

発売日: 2016年02月24日

価格: ¥ 600(本体)+税

レーベル: ユニバーサル ミュージック

収録曲

1. Canvas

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