レビュー

THE YELLOW MONKEY | 2016.10.18

 申年の2016年に再集結したTHE YELLOW MONKEY、15年9ヶ月ぶりのニューシングル。表題曲は菅野美穂主演ドラマ『砂の塔~知りすぎた隣人』の主題歌のために作られたという。アクの強いリアルな愛憎劇を得意とするTBS金曜ドラマ枠というのもTHE YELLOW MONKEYには似合いすぎている。“再デビュー作”としては、これ以上ないタイアップに思わず膝を打たずにはおれない。

 さまざまなスタイルの曲をもつTHE YELLOW MONKEYゆえ、何が王道とは言えないが、この曲は吉井が幼少の頃から聴いてきたというドメスティックな70年代歌謡曲がもつマイナーな香りが充満するまさに“王道”の曲だ。そこに歌謡曲を知りつくした船山基紀の緊張感あふれるストリングスアレンジと、不穏な音色を奏でるクリーンなギターがサスペンスタッチに追い打ちをかける。

 「子どもが口ずさめるような」とは吉井の弁だが、過去の日本の歌謡曲の広がり方を顧みれば、あながち間違いでもない。それくらいメロディアスでハッキリした日本語が吉井の薄い唇から放たれた時のひんやりとした感覚は、冷静にそして次第に熱を帯び、ドラマのストーリーとベテランロックバンドの現在を炙り出していく。ドラマに登場する高層マンションと、懐かしバンドという、うれしくもなんともない立ち位置を回避しながら自分たちのこれからを示唆するような言葉、「安定はしない」がすべてを物語っているようだ。新生THE YELLOW MONKEYの新しいグルーヴを手に入れた彼らの未来はここから始まる。

 一方の「ALRIGHT」はTHE YELLOW MONKEYがまさにサナギから羽化する瞬間を歌った再生の曲。ずいぶんと音沙汰がなかった男たちが急に別れを告げて姿を消した。どれだけの人が涙を流し、焦がれたことだろう。その彼らが15年の歳月を経て突然目の前に現れた。「離さないぜ」。なんと勝手なことを言うのだろうと思う。そこで感じたとまどいにも似た感情と、その裏にあるかつてない高揚感を全部呑みこんでしまうイントロのギター。吉井にしか書けない見覚えある筆づかい。とうに忘れたことにしたTHE YELLOW MONKEY再出発のプロローグは、再会の涙さえ忘れさせるほど強く、希望に満ちていた。

 華々しくゴージャスに幕をあけるのではない。そこにはソリッドにストイックに自分たちだけの音を鳴らし、足元を見つめながら聴く者を鼓舞し、凌駕してゆく新しいTHE YELLOW MONKEYの姿があるだけだ。

 フリーズしていた15年という年月が、この曲によって氷解していく。

 THE YELLOW MONKEYは夢なのである。

【文:篠原美江】

tag一覧 シングル 男性ボーカル THE YELLOW MONKEY

リリース情報

砂の塔(初回盤)

砂の塔(初回盤)

発売日: 2016年10月19日

価格: ¥ 1,296(本体)+税

レーベル: 日本コロムビア

収録曲

1. 砂の塔
2. ALRIGHT
Bonus LIVE Track
3.プライマル。
-東京・国立代々木競技場 第一体育館-
4.SPARK
-長野・ビッグハット-
5.バラ色の日々
-広島・広島グリーンアリーナ-
6.BURN
-宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ-
7.楽園
-愛知・日本ガイシホール-
8.WELCOME TO MY DOGHOUSE
-大阪・大阪城ホール-
9.花吹雪
-埼玉・さいたまスーパーアリーナ-
10.BRILLIANT WORLD
-福岡・マリンメッセ福岡-
11.球根
-兵庫・神戸ワールド記念ホール-
12.TVのシンガー
-神奈川・横浜アリーナ-
13.パール
-福島・あづま総合体育館-
14.カナリヤ
-北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ-

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