レビュー

米津玄師 | 2017.02.14

 この数年、最も注目すべきシンガー・ソングライター、アーティストである米津玄師が2017年の第1段としてリリースするシングル「orion」。彼のメジャー1stシングル「サンタマリア」や3rdシングル「flowerwall」に通じる美しさと「アンビリーバーズ」などに通じるポップさを受け継ぐメロディは、1度聴いたら忘れないだろう。9月に出た5thシングル「LOOSER」のパンキッシュといってもいい歯切れの良さと対照的なスタイルだが、どちらも米津の得意とするところ。これまで彼が築いてきた、広く届く歌の最新型がこれだ。しなやかに届く歌と、ストリングスを加えた広がりのあるサウンドが、ひんやりとした空気の中で感じる体温のように暖かい。夜空に点在する星を結んでいく星座のように結ばれたいと密かに思う気持ちは、声にならないまま夜明けを待っている。冬に見える星座として有名なオリオン座をモチーフにしたのは、アニメ「3月のライオン」第2クールのエンディング・テーマになったことと繋がりがあるのだろうか。米津が描くピュアネスは、ガラス細工のように繊細で美しい。

 だが人間は純粋なだけではないと歌い続けているのが米津だ。心の奥のダークサイド、人間が捨てることのできない罪を、彼は臆すことなく描いていく。「ララバイさよなら」もそうした曲の一つ。ひとの痛みや苦しみも餌食にするタチの悪い連中は、言うべきでないことを「本音」と称してバラ撒き闇を広げていく。そんな風潮を極上のシニシズムで歌っている「ララバイさよなら」は、「orion」と対比をなして生々しく人間という存在を感じさせる。どちらも整理がつかないままか抱え込んで混沌としたまま生きているのが人間だ。ギター1本で歌い出し、シンプルなバンド・サウンドで進むこの曲もまた、そんな人間の体温を感じさせる。

 もう1曲の「翡翠の狼」は、めまぐるしく動くメロディと軽快なサウンドで、インディーズ時代からの彼を知る人なら喝采しそうな打ち込みナンバー。得意のスタイルだけれど、ほんの少しテンポを遅くしていることでグッと間口の広さを感じさせる曲になっている。翡翠の狼とは生き物なのか石なのか謎だけれど、何かを求めて放浪する想像の生き物に自らに重ねているようでもあり、寓話めいた歌詞を読み解きたくなる。そして、さりげなく最後に1番だけ入っている「orion」ストリングス・ヴァージョンが、冬の夜空の透明感を1年中感じさせてくれそうだ。このシングルから始まった米津玄師の2017年は、さらにスケールの大きなものになるに違いない。

【文:今井 智子】

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リリース情報

orion

orion

発売日: 2017年02月15日

価格: ¥ 1,200(本体)+税

レーベル: Sony Music Records

収録曲

M-1:orion
M-2:ララバイさよなら
M-3:翡翠の狼

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