レビュー
吉澤嘉代子 | 2017.05.22
吉澤嘉代子の新曲「月曜日戦争」。バカリズム原作/脚本/主演のドラマ「架空OL日記」の主題歌として書き下ろされたもので、彼女にとっては初のドラマ主題歌であり、初のシングルとなる。2分57秒という(最近にしては)短い曲ながら、ドラマのエンディングで流れてる時も、ラジオからふと聴こえてきた時も、耳にした途端にその世界にトリップさせられてしまうような強いインパクトを持つ曲だ。ちょっと懐かしい、美少女アニメの変身シーンみたいなキラキラしたイントロを聴けば、もうそれだけで魔法にかけられたような気分。月曜日と戦うOL戦士たちの物語が、脳内で鮮やかに再生されていく。
インタビューでも語ってくれていたが、春にリリースされた3rdフルアルバム『屋根裏獣』は、<自分が好きだと思う曲だけを詰め込んだ、絶対的な作品>にしたいという強い気持ちのもとで制作された。だが、完璧を求めるが故にいっぱいいっぱいになってしまい、作業を中断せざるを得ない状況になってしまったそうだ。デビュー前から描いていたアルバム3枚分の構想――1枚目は少女時代、2枚目は日常、3枚目は物語性の強い楽曲に焦点を当てるという明確なコンセプトを持って作品作りを遂行してきた彼女だけに、その3部作の集大成となるアルバム制作の過程でそうなってしまうのも無理はなかったのかもしれない。
そんなアルバムを作り終えて間もなく完成したのが、この「月曜日戦争」だ。自分でも妄想の中の誰かでもなく、ドラマという<もうひとつの作品>と真正面から向き合うことで彼女が提示した本作は、ちょっとだけ漂うメランコリックな雰囲気が彼女のユーモアのセンスを引き立てる痛快な仕上がりに。憧れを抱いていた「少女時代」も、OLという「日常」も、宇宙を舞台とする「物語性」も、すべての要素がなんとも軽やかに同居している。月曜日を擬人化したり、この星を守ってきたのはヒーローではなくヒーターだと言ってみたりして、ドラマを見ている人ならクスッと笑えるサインが散りばめられているのも楽しい。「吉澤嘉代子」であることに変わりはないが、ソングライターとしての新しいスイッチが押されたような、新たなワクワク感を聴き手に与えてくれる表題曲が完成した。CDジャケットを手がけたイラストレーター・たなかみさき氏が描き下したイラストによるアニメーション仕立てのMVも、このままシリーズ化できそうなくらい個性的な世界観を持った作品に仕上がっているのでぜひチェックしてみてほしい。
カップリングの「フレフレフラレ」は、本人曰く「吉澤嘉代子としては初めての?堂々とした応援歌かも」。日々血を流さない戦いを繰り広げている OL戦士も、制服という名の戦闘服を脱いだらひとりの女の子――そんなシーンにそっと寄り添いながらエールを送っているような、あたたかいナンバーだ。
初回限定盤は、通常のCDに加え、先日のワンマンライブでも演出のひとつとしていい仕事をしていた<カセットテープ>付き。細部に至るまで、彼女のセンスとこだわりが光る「作品」だ。
【文:山田邦子】
リリース情報
月曜日戦争
発売日: 2017年05月24日
価格: ¥ 1,111(本体)+税
レーベル: 日本クラウン
収録曲
1.月曜日戦争
2.フレフレフラレ
3.月曜日戦争 (instrumental)