レビュー

米津玄師 | 2017.06.21

 TVアニメになったコミック「僕のヒーローアカデミア」の主人公デクがピースサインを掲げる姿がジャケットの「ピースサイン」。春からこの番組のオープニング・テーマになっている米津玄師の7枚目のシングルだ。力強いコーラスで始まるこの曲は、ヒーローを目指す真っ直ぐな冒険譚の幕開けにこれ以上なくふさわしい。コミック新刊にコメントを寄せたり原作者の堀越耕平との対談が公開されるなど、「ヒロアカ」ファンからも熱い支持を得ている米津だが、シングルとしてリリースされたことで米津玄師というアーティストの存在が更に大きくクローズアップされるに違いない。

 何よりもスプード感のある楽曲、ポジティヴな歌詞を力強く歌う印象的なヴォーカルが、今までになくストレートに米津玄師というアーティストを伝えてくる。内省的な歌詞や美しく印象的なメロディも魅力的だが、こんなアグレッシヴな彼もいい。リリースに合わせて公開されているMVは、大きなキャンバスに向かってフリーペインティングする姿や、バンドとの演奏シーンでリアルな彼を伝えてくる。自作アニメーションを使って楽曲をダイレクトにぶつけてきた初期の彼からは想像もできないリアリティある存在感に、見るほどに圧倒される4分半だ。最後に収録されているこの曲のインストゥルメンタルを聴くと、一層歌の大きさが浮かび上がる。発表された11月からの全国ツアーでは、シンガロングが起こる熱いナンバーになるに違いない。

 カップリングもリアルな彼を感じさせる2曲。「Neighberfood」は中期ビートルズを思わせるギターと鍵盤のイントロで、子供の頃を思い出す夢を見ると歌う。記憶を辿る「懺悔の街」や夢に迷い込む「ペトリコール」などとまた違った、痛みを含んだ思い出と夢だ。隣人とは彼の中にいるもう一人の彼だろうか。子供たちに向け勇気と希望を歌う「ピースサイン」と対照的な不安や焦燥、赤裸々な過去の記憶を歌う彼にハッとさせられ、綺麗事だけで収めない米津の体温のようなものが伝わって来る気がする。

 3曲目はピアノとシンセをメインにした穏やかなバラードで、悪い夢を食べてくれるのが「ゆめくいしょうじょ」。淡い思い出のように幻想的な歌詞に引き込まれるが、後半のギターのボディを叩く音だけで歌う一節がドラマチックだ。ライブでこれを聴いたらどんな思いがすることだろう。15カ所20公演という初の規模になる「米津玄師 2017 TOUR / Fogbound」は見逃せないものになりそうだ。

【文:今井 智子】

tag一覧 シングル 男性ボーカル 米津玄師

リリース情報

ピースサイン

ピースサイン

発売日: 2017年06月21日

価格: ¥ 1,200(本体)+税

レーベル: Sony Music Records

収録曲

1.ピースサイン
2.Neighbourhood
3.ゆめくいしょうじょ
4.ピースサイン(Instrumental)

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