レビュー
My Hair is Bad | 2017.09.05
ライブツアー「ハイパーホームランツアー」の一環として初の日比谷野外音楽堂ライブ(2017年5月4日)を成功させ、京都大作戦、音楽と髭達、ROCK IN JAPANなどの大型フェスに次々と出演。ライブバンドとしての存在感をさらに強めている(筆者が観た直近のライブはAge Factoryのレコ発イベントだったのだが、自らの表現を叩きつける際の強度、そして、共感とは違うところで観客を惹きつけるパワーが凄まじかった)My Hair is Badのニューシングルは、「運命」と「幻」による両A面。自分自身の体験と感情をそのまま放ち、その純度を極限まで高めながら生々しいロックンロールへと導いてきた椎木知仁(Vo・Gt)だが、このシングルではこれまでとはまったく別のアプローチを採っている。“指輪”をモチーフにしながら、同じ場所、同じ時間に存在している恋人たちを別々の視点から描いているのだ。男性目線の「運命」は“どうして/終わりだけわかってしまうんだよ”と叫ぶエッジーかつアグレッシブなロックナンバーで、女性の視点を用いた「幻」は“怒ってよ/振り向いてよ/嘘を付かないで傷付けてよ”というラインが広がるミディアムチューン。ふたつの楽曲がどう絡み合い、どうズレているのか、そして、2曲を続けて聴いたときにどんな感情が生まれるのかは実際にシングルを聴いて確かめてほしいが、豊かなニュアンスを含んだメロディライン、活き活きとした物語が立ち上がってくるリリックからは、ソングライターとしての椎木の成長を強く感じてもらえるはずだ。…いや、もしかしたら“成長”という言い方は正確ではないかもしれない。自らの体験をリアルな音楽としてリスナーに伝える椎木には、最初からストーリーテラーとしての資質が備わっていたのではないだろうか。
ひとつひとつの言葉に濃密なエモーションを宿らせ、“僕”と“君”の感情の揺れを出現させるボーカリゼーション、そして、楽曲に含まれる物語をさらに増幅するようなアレンジとバンドサウンドもこのシングルの大きな魅力だ。待望のニューアルバムも完成間近。「運命」「幻」を交互に聴きながら、My Hair is Badの新たな傑作の到着を心待ちにしたい。
【文:森 朋之】
リリース情報
運命 / 幻
発売日: 2017年09月06日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: EMI
収録曲
1.運命
2.幻