レビュー
KREVA | 2018.08.20
今作を聴いて、最初に思い浮かんだのは“minimal”という言葉だった。ミニマルミュージック的なサウンドということでは全くない。トラックを乗りこなしながら放たれるラップ、歌から伝わってくるものが極めて簡素であると同時に、本質をズバリと鋭く突いているから、こういう印象を抱いたのだと思う。
“存在感はある”と“存在感がある”の間にある大きな差異をじっくりと見つめている「存在感」。顕微鏡で覗くミクロの世界の中に実は宇宙規模のロマンが広がっているのと同様、限られた領域への興味にも無限の深みと可能性が渦巻いていることを示す「俺の好きは狭い」。“人生を目一杯に味わいつくすための絶対条件は健康である”という、おそらく全人類が心から賛同する真理を歌っている「健康」。ダジャレとも言うべきタイトルの曲だが、とめどなく溢れ続ける向上心を高らかに歌っている「百人一瞬」――どの曲も、とてもストレートなのが独得だ。
「挑め」「基準」「成功」「かも」というようなタイトルの曲があることからも窺い知れるが、もともとKREVAには変にヒネり過ぎずに描きたい想いを歯切れよく提示するところがある。しかし、1枚の作品としてここまで“そのまんま”というニュアンスの表現を貫いたのは、今回が初めてではないだろうか。自ずと口をついて出た言葉がありのままに曲として開花しているかのような各曲には、その圧倒的なストレートさゆえに、1人の人間としての彼の実像が深く刻まれているようにも感じられる。そこがこの作品を聴く上で注目すべきポイントの1つだと言えるだろう。
そして、サウンド的な面に関しては、いわゆる“後ノリ”などと呼ばれたりもするブラックミュージックの王道とも言うべきニュアンスのリズムの捉え方をするのではなく、彼なりのフレッシュな音の乗りこなし方をいろいろ試みているように感じられるのが、とても興味深いところだ。これまでの彼の活動を熱心に追い続けてきたファンであるほど新鮮な風味を噛み締められる作品にもなっている。
昨年からKICK THE CAN CREWでの活動も精力的に繰り広げているKREVA。来年はいよいよソロデビュー15周年を迎えることになるのだが、探究心と好奇心に満ちた進化を積み重ねていることが、今作を聴くと本当によくわかる。本人が現在の自分自身をどう思っているのかはわからないが……最早、ヒップホップシーン以外からの熱いリスペクトも集めるようになっている彼にふさわしい表現は、“存在感はある”では決してない。“存在感がある”の代表格のようなこの男の動きは、今後も刺激的なものであり続けるはずだ。
【文:田中 大】
リリース情報
存在感
発売日: 2018年08月22日
価格: ¥ 1,500(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
1.INTRO
2.存在感
3.俺の好きは狭い
4.健康
5.百人一瞬