レビュー
神山羊 | 2021.03.30
2021年、神山羊に注目すべきだ。3月10日にリリースした最新シングル「色香水」が、人気TVアニメ『ホリミヤ』(TOKYO MXほか)オープニングテーマへ起用されていたことで話題となっている。再生回数の伸び率も過去最大級だ。ボカロP名義、有機酸としてはエレクトロなポップサウンドをクリエイトしていたが、自主レーベルでの活動を経てstudioNUI(ソニーミュージック)でのメジャーデビュー後、神山羊として一貫しているのが“歌もの”としての時代を超えていくエバーグリーンな普遍性だ。
本作は“青春”をテーマにYMO、山下達郎、小田和正など80年代のポップミュージックによる影響、歌謡センスあるメロディへチャレンジしたという。昨今、70年代のシティ・ポップや歌謡曲が海外含め国内でも注目されているが、この流れは80年代ジャパニーズポップスの再発見、再評価へと結びついていくだろう。Spotify、Apple Musicの普及によって世界中へヒットの扉が開かれたストリーミングサービス。独自の言語と特異なコード感や構成を持つ日本産ポップスは大きなチャンスを得た。日本語でのポップミュージックにこだわる神山羊のアプローチは、数歩先の未来を見据えているように思える。
神山羊の音楽シーンへの登場は鮮烈だった。2018年にYouTubeへ初投稿した楽曲「YELLOW」が7700万再生突破(2021年3月現在)。クールな四つ打ちビートがティーンに刺さり、n次創作されたことでTikTokでバズった。その後も、カルチャーシーンの先頭をいく様々な表現者とアートワークやミュージックビデオなどでコラボレーションを続け、自ら編曲も手がけるシンガーソングクリエイターだ。
「色香水」は歌はじまりのキャッチーさ、煌めいたシンセポップなシーケンスが耳に優しく、ベースが牽引する跳ねるビートが快楽ポイントの高いナンバーだ。誰しもの青春期にアクセスするであろう、敢えて固有名詞を挟まない感情表現がせつない日本語リリック。注目ポイントは歌詞で描かれた“匂い”だ。音楽と匂い。この2つは記憶に鮮烈に残る。人が生きていく上で積み重ねられた記憶を紐解く鍵だ。さらに「色香水」では、印象的なシンセサイザーによるリフとともに“色”が心にイメージを刻み込んでいく。
最新シングル「色香水』は2曲収録されている。メディアの特性上、A面とB面があった7インチレコード、カセットテープ、そしてCDシングルなどを彷彿とさせてくれる80’s~90’sカップリングスタイルだ。
2曲目「生絲」は柔らかなイントロダクションから生バンドサウンドによって、たゆたうようにすっと入ってくるメロディが愛おしい。糸によって結びついている人間関係。ときには絡み合うことも切れてしまうこともあるだろう。後悔と儚さ。記憶の中にふと生き続ける、あのなんともいえない感情を表現したナンバーだ。注目は、2分ジャストなタイミングで訪れる一瞬の空白。そこから加速していくかのように、同じリリックであったとしても情景に変化が訪れていく。聴いて欲しいポイントだ。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
リリース情報
色香水
発売日: 2021年03月10日
価格: ¥ 1,819(本体)+税
レーベル: SMAR
収録曲
01. 色香水
02. 生絲
Disc2 (Blu-ray)
神山羊2019 TOUR「ゆめみるこどもが目覚めたら」11.9 at EX THEATER ROPPONGI
01. Ope(Till that Time)
02. CUT
03. 青い棘